ー花火ー 今市隆二 × 登坂広臣

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溶けるような夏の日の正午。

容赦なくジリジリと肌を照りつける強い日差しに
もう耐えられない。






「…暑いっ」






手の平で顔をぱたぱた仰ぎながら
街路樹の木蔭に逃げ込む。







「それでは！失礼します！」


「どうもっご苦労様でした！」








すっとあがった帽子に深くお辞儀を返すと。

仕事を終えたトラックが
目黒の街を颯爽と走り去っていく。









ーー未だふわふわと現実味を帯びないのは。


目の前には私には似つかわしくない
つるつる輝いてる高層マンション。





ここは東京の親戚の叔父さんの
所有する物件の一つで。

上京祝いだー！と、気前よく、かつ破格の家賃でこの部屋を貸し出してくれた。



私なんかがこんな部屋に住めるなんて本っ当に夢のようなお話で。本っっ当に幸運に思う。



叔父さん感謝してもしきれない想いに
なんとなく都会の空を見上げた。






「やっぱり暑い…」







これからの新生活。
初めての一人暮らし。
新しい職場。



不安要素はたっぷりあるけれど
新しいスタートはなんだってわくわくする。



光放つ磨きあげられたエントランスを
潜りぬけて。

胸ときめかせながら
部屋の階数ボタンを押した。





私は地元の飲食店で三年間働のち、

今回新しくできる系列店のダイニングバーへ
と配属が決まり上京してきた。



新しい住まいは勤務先からも
最寄り駅からも徒歩10分程。


それでいて24時間営業の
コンビニも凄く近い。


徒歩で行けるそのお店は
申し分のない魅力的な要素のひとつだった。


これから一番お世話になる場所に違いないと。





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〜♪〜♪〜♪


予めセットしといた携帯のアラームが
19時をお知らせ。






「え！もうそんな時間……か」





途中休憩を挟みつつ、
あれから黙々と荷解きをして。




今日はこの後新しい職場での
打ち合わせが入ってる。





お店に21時からの集合だから
20時には早めに家出ようかな…




そんな事を考えつつも、
体は至って正直で既に疲労感が漂ってる。



私はごろんと床に寝転んで
しばらく天井をぼーっと見つめた。








「今日は打ち合わせから帰ったらまた荷ほどきしなきゃ全然終わらないな…はぁ……」







帰宅後の事を考えると溜め息が止まらなくなる。

明日は休みだから持ち越そうかな…
なんて甘い考えも過りはじめた。





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今宵あんな出逢いがあろうとは
露知らず。

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