山椒は小粒でもピリリと辛い【天童覚】

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夢を見た気がした



昔から、割と好きなことばかりやって

欲しいモノはある程度手に入れてきたはず



試合だってそこそこ勝ててたし


女の子にもそこそこモテてたし


友達だって人並みにはいた




なのに、いきなり谷底に突き落とされた

そんな感じの夢を見た




昨日はあんなに幸せだと思った自分を



俺は疑った




"サヨナラ"



夢の中でかすかに聞こえた声が

俺の喪失感をさらに強調する





「A…？」




俺の腕の中に確かにいた



俺もAを求めて、Aも俺を求めて


確かに抱き合った



"サトリ"って確かにそいつは呼んだ


何度も何度も俺の名前を呼んだ





「A…」




俺の鎖骨あたりには

紅い花が一輪だけ咲いていて



俺の枕には俺のじゃない香りが残っているのに





「A…っ？」




いくら呼んでも返事は返ってこなかった






「馬鹿じゃねーの、オレ」




虚しくも、俺に残っているのは


Aを抱いた感覚




やっと手に入れたと思ったのに


やっと俺のモノになったと思ったのに




ほんとに甘くない女




俺が堕ちた時点できっと負けてたんだ



俺よりも断然小さいくせに

俺はあいつの手の中で転がされてたんだ




それから、Aを見ることはなかった




最後に見たAの悲しい表情が


俺には気がかりでならなかった





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