【短編集】恋のうたを聞きながら vol.3【ジョジョの奇妙な冒険】

何とか言ってよ【トリッシュ】リクエスト・達也さん ページ29

ねえ、何とか言ってよ。


　そう言って、私は俯いた。目の前の貴女の目を見ることは、できなかった。そんな事をしたら、私の心はきっとバラバラになって死んでしまう。

(何でこんなことになっちゃったんだろう、私)

　一目見た瞬間、恋に落ちた。
　女が女を好きになる、なんて有り得ないという考えは、彼女を前にして簡単に吹き飛んでしまった。艷めく黒い髪も、光を浴びると輝く白い肌も、涼し気な目元も、柔らかく弧を描く唇も、全てが完璧だった。

─貴女がトリッシュさん？

　そう言って微笑んだあの時の笑顔は、私の知る限りで最高に美しかった。思慮深くて様々なことを経験してきた大人の女性が見せる少し影のある儚い微笑みだ。その微笑みはただ月のように優しく私の進むべき道を照らしてくれた。
　何もかもが、好きだった。
　貴女の1番の女なりたかった。
　貴女の人生でたった1人の女になりたかった。
　Aはうつむいたまま何も言わない。

「こ、まらせて…ごめんなさい」

　両手で顔を覆う。こんなに情けない泣き顔を見られたら、とてもじゃないけど立ち直れそうにない。

「でも…好きなの、貴女が。貴女の何もかもが好きなの…愛してる」

　この気持ちは抱えるには重すぎるほどに大きくなってしまっていた。それ程になるまでに放っておいてしまった。


「この世の残酷なこと全てから…貴女を守りたいの」


　貴女がそんなに弱くない、なんて分かっている。私がいなくたって、貴女はきっと大丈夫。でも、出来ることなら…私をすがって欲しい。私を頼って、私を必要として欲しい。

(こんなに汚い感情……貴女にぶつけたくないのに)

　ワガママで汚れ過ぎたこの想いを、愛と呼んでいいのだろうか。
　私は顔をあげられないまま、黙り込んだ。沈黙が耳に痛い。

「A…嫌なら、嫌と─」

「トリッシュ」

　私の名前を呼ぶ声に私の舌は動かなくなる。

(ああ、なんて優しい声なんだろう)

　その声で振られたって、私はきっと幸せだって思えるくらいに甘い声だ。

「そんな風に顔を隠さないで。ちゃんと見せて」

「でも…」

「私を見て」

　命じられるままに顔をあげ、私は息を吞んだ。

(ああ、なんて綺麗なの…)

　薄く色付いた頬が、あの美しい微笑みを彩る。

「好きよ」

「え…？」

　理解するより先に、私の体は優しい香りに包まれた。暖かい腕の中で、私の目からはまた熱いものが溢れ出す。




「私も貴女が好きなの、トリッシュ」

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