飴玉が7つ ページ9
己の不幸を悲しむことはいつでもできるなどと宣うことができるのはその経験が一切無い人間だけだ。もしくは、「不幸」を体験したと勘違いしている類の人間か。どちらにしても無責任にも程がある。
例えるならば不幸は底なし沼だ。這い上がることは勿論、滅多に落ちることも無い。人というのは一歩を慎重に慎重に進んで行くら落ちることは殆ど無い。でも、偶に草に足を引っ掛けてしまい、落ちる人間が居る。それが俺だ。
俺の場合咄嗟に近くに居た弟…碧も道連れにしてしまったのだから憎まれて然るべきだろう。ついでに色んな人からの呪詛も飛んできそうな所である。…たとえば、碧を可愛がっていた父親であるとか、当時の碧の彼女であるとか。
因みにその彼女とは円満に別れたらしい。まあそうだよな。というか円満によく終わったな…。
味わったことも無いくせに大口を叩く所は往々にして人間の悪い所である。どうせ治らん。それを嘆いても仕方ない。
「碧、夕飯何がいい?」
「んーとねー、唐揚げ!唐揚げがいいな」
こんな平和な会話をしていても、俺達がどんな人間かは伺い知れないし、それぞれどんな仕事をしているかも分からない。
俺なんて見た目は真面目そうな教師に見えるらしい。まあ確かに教員免許は持ってはいるが働いたことは殆ど無いし、今の本職は暗殺者だ。
真面目とも何とも縁が無い。
もう非合法に傾きすぎてお堅い公務員にはなれない気がする。まあなる気も無いが。
「ん。了解。じゃあ鶏肉買って帰らなきゃだな」
「うん」
ゆるくつないだ手を揺らして買い物へ向かう。
まるで幼子と一緒に行くようだが、お互いがお互いを離さないように、お互いの心の安全のためには仕方の無いことなのだ。
…そう、仕方がないことなのだ。だからレジのお姉さんに生暖かい視線を向けられるのも仕方ない。必要最低限の犠牲だということにしておこう。
「碧、お菓子は3つまでだぞ」
「バレた?」
バレるも何も手を繋いでいるんだから分かるよな。というか分からなかったら現役暗殺者としてどうなの、って話だよな。
そんなポンコツ雇ってくれる依頼人は居ないだろうし、居たとてそれは本来の用法ではない伽とかに使ってくる輩だろう。俺知ってるんだからね。
「…3つまでな」
「わーい!にぃ大好きー!」
現金だけど、これくらいはしてあげたいから。
いつも頑張っている碧にはこれくらいしてあげたいから。してあげたとて、碧の苦労が薄まることは一切無いのが何とも悲しいところである。
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椿@低浮上(プロフ) - marshmallowさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!頑張ります…!コメントありがとうございました!お返事遅くなって申し訳ない… (2021年5月5日 3時) (レス) id: e4b31c2906 (このIDを非表示/違反報告)
marshmallow - めっちゃ面白かったです!!出来れば、別視点からの一樹君も見てみたいです!更新頑張ってください! (2021年4月28日 21時) (レス) id: bf7086b5e5 (このIDを非表示/違反報告)
椿@低浮上(プロフ) - 晴幸@社会不適合者さん» わわわ、ありがとうございます!励みになります! (2021年3月28日 17時) (レス) id: e4b31c2906 (このIDを非表示/違反報告)
晴幸@社会不適合者(プロフ) - 何時読んでも最高過ぎるのだけれど、有り難う、良い作品を生み出してくれて。 (2021年3月25日 10時) (レス) id: d3defbd144 (このIDを非表示/違反報告)
椿(プロフ) - 櫻蠅さん» わわわ、早とちりで失礼なことを長々と…すみません…!!はい、また語りましょうね! (2020年2月29日 1時) (レス) id: 8c21d37533 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:椿 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/3d9bdea2451/
作成日時:2019年11月22日 23時