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Side七五三掛
「しめ、」
久しぶりに聞くその声は、乾いた砂にポトリと水が落ちたみたいにじんわり鼓膜を揺らした。
「……如恵留先生。」
「どう、状態は。」
まだ13歳で体も大人になり切っていない海人くんの治療には、小児科の知見も欠かせない。循環器や整形と一緒に小児科とも連携して治療に当たっているから、ここに如恵留先生がいるのは全然不思議なことじゃなかった。
「……先生。これ、見てもらえますか。」
目の前の先生にすがりつきたくなるのを必死にこらえながら、1枚の紙を差し出す。先生は俺から視線をそらさないまま、それを受け取った。
「全く、反応がないね。」
「……はい、」
「尿のコントロールもできなくなってるな。呼吸機能も、」
「わかってます、！……もう、わかってます。」
思いがけず大きい声を出してしまって、俺は反射的に人工呼吸器につながれて眠る海人くんの方を見た。どれだけ大きい声を出しても、もうこの子には聞こえていないのに。
「……ご両親を、呼んでください。」
聞き逃してくれれば、と思っていたのに、近くにいた看護師が頷いて出て行く。
海人くんは、脳死状態だった。内臓の機能もほとんど損なわれていて、もう時間がない。長くても、あと数日。
病院に泊まり込んでいた両親は覚悟していたようだったけれど、それでもこのことを伝えた瞬間耐えかねたように床に崩れ落ちた。
「手を、握ってもいいですか。」
「……どうぞ。」
海人くんの2本の手が、それぞれ彼より大きな手に包まれる。指先に触れて、指を隙間がないほど強く絡ませて。最後には、その手を顔に押し付けて泣いていた。
俺も、色々な手を握ってきた。研修医になってからは、患者の手。もっと前は、お世話になっていた病院の先生や、看護師さん、そして家族。
でも、いつだってそれは励ましだった。離さないよう、未来がつながるよう。
『りゅうくん、大丈夫だよ。がんばろうね。』
目の前の家族から、同じような言葉は聞こえてこなかった。これが最後だと悟っている触れ合いに、もう言葉はない。
泣くことも目をそらすことも許されない俺は、ただそれを見ていることしかできなかった。
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
