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Side七五三掛
その日は、なんだか嫌な予感がしていた。
いつもより多い搬送の件数。いつもよりほんの少し少ない人手。
もやもやした霧みたいな違和感の間を突き抜けて目の前に飛び込んできたのは、今までにないくらい深刻な状態で搬送されてきた男の子だった。
「中村海人くん、13歳！普通乗用車にはねられ心肺停止です！」
頭部固定器の間から見える顔以外は、直視するのも難しいほどの状態だった。無意識に棒立ちになっていた俺の耳を、怒鳴り声にも似ている指導医の声がすり抜けていく。
「……七五三掛！心臓マッサージ！」
俺は、いくつの指示を聞き逃してしまったんだろう。やっと我に返って、汗だくになった先輩のドクターと交代する。
両手を置いた胸は、薄く頼りない。目の前で危険にさらされている命が間違いなく子供のものだと、頭より先に体が理解する。
その瞬間、頭にカッと血が昇るみたいな感覚に襲われた。この子を、助けたいと思った。
でも、その思いが強くなればなるほど頭が上手く回らない。救急で研修を始めてからそれなりの期間が過ぎて、やっと冷静に対処できるようになったはずだったのに。処置をするのはもちろん指導医の下だったけれど、いつも自分で最善の方法を組み立てようと必死だった。
なのに、
「……お前は、ここに残れ。」
海人くんが、オペ室に運ばれていく。冷静じゃないことを指導医に見抜かれた俺は、そこに加わることを許してもらえなかった。
呆然としかけていたところに、今度は海人くんのご両親がやって来た。オペの説明のために、2人を専用の待合室まで案内する。
どうして海人が、と取り乱した声を聞きながら、俺は胸が苦しくなるのを感じていた。どうしてうちの子が。絶対に答えがない問い。本当に小さい頃から、何回も何回も聞いてきた。
「……海人くんの治療を、やらせてください。」
長時間のオペを終えた指導医に、頭を下げる。もともと俺が小児科志望なのを知っているからか、断られはしなかった。
それから3日間、大きなオペが繰り返し行われた。それでも、海人くんの状態は少しもよくならない。
残されたのは、残酷な事実を示すデータだけだった。
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
