・ ページ45
Side松倉
目を開けた瞬間、病室の白い天井が見えても別に悲しくはなかった。むしろ、やっぱりな、なんて笑いたくなるくらい。
でも、少しだけ視線を左にずらしたとき、落ち着いていたはずの心臓がまた大きく跳ねた。
「……っ、なん、で、！」
赤く潤んだ元太の目がこっちを見て、膨らんだ涙の膜が弾けて落ちる。俺は夢中で体を起こすと、そのまま固まってしまった元太の手からノートを奪い取った。
「海斗！？」
「ぅ、……っ、！ゲホゲホっ、」
いきなり起き上がったせいで、息が乱れて視界が歪む。それでも俺は、ナースコールにのびた元太の手を必死に押さえた。
「海斗、！」
「……っ、もういい、ほっといてくれよ。自分の体だよ、ちゃんと、わかってんだよ……！」
元太は力の抜けた顔で俺を見つめていた。少しして、その手からも力が抜けていく。
「体、よくなったから、退院したんじゃなかったのかよ……？」
消えそうな声で言うと、元太はまた涙をこぼした。俺が寝てる間に、きっと全部知ってしまったんだ。俺の親は昔から家族同然の付き合いがある元太を信頼してるから、全部話してもおかしくない。
それに、このノートも、きっと見られてしまった。
「……もう、治療はできないって言われたんだ。だから、やりたいこと全部やろうって。それで、このノートに、」
「なんで、俺に言ってくんなかったの？」
「だって、俺死ぬんだよ？あれしたい、これしたいって、叶えられないかもしれないことを元太には、」
言いかけた言葉は、元太の肩に口を塞がれて続けられなかった。震える肩の感触に、胸が火傷みたいに痛む。
やりたいことリストなんて、名前をつけたあのノート。あんなの、もういらない。こんなふうに元太を泣かせるくらいなら、１つも叶わないまま死んだ方がマシだ。
「……っ、お前、ふざけんなよ！」
覆い被さるみたいに俺を抱きしめたまま、元太は声を荒げた。
「サッカーの試合、ちゃんと見に来いよ！放課後にカラオケでバカやろうぜ！……俺がいるんだから、勝手に諦めんなよ、！」
俺がノートに書いたことを必死に並べながら、元太は俺を抱きしめ続けた。
痛いくらい強い腕の力に、涙の温かさに、どうしてまだ縋りたくなるんだろう。
あるかわからない明日が諦めきれなくて、止むかわからない雨の音に包まれた俺たちは、一緒に声を上げて泣いた。
fin.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
