・ ページ42
Side松倉
今日グランド使えないし、筋トレの場所も取れなかったって。
マジ？じゃあ、今日部活休み？
休みならカラオケ行こうぜ！
ポンポン交わされれる会話を、俺は少し離れた所で聞いていた。まぶしいなぁ、自分たちがまぶしいなんて誰も思ってなさそうなところが、まぶしい。
「あ、わりい。今日はパス。」
ぼんやり聞いていた俺の耳に、元太の声が真っすぐ飛んでくる。はっとして顔を上げると、なぜか元太と目が合ってしまった。俺に気づいた瞬間、パッと元太の顔が輝いて勢いよく右手を上げる。
「海斗！今行くから！」
海斗？誰だっけ？
元太の周りが、そうささやいた気がする。急に耳のあたりがカッと熱くなって、俺は逃げるように小走りで教室に戻った。
「海斗！なあ、海斗！！」
教室に戻って自分の席に倒れるように座ると、追いかけるようにして走ってきた元太は俺のすぐそばに自分の椅子を引き寄せて座った。
「なんで急に走ったりすんだよ、危ねえじゃん……。」
困ったように言いながら、元太は上下する俺の背中を優しくさすってくれる。
「海斗、大丈夫？苦しい？薬飲む？」
「……っ、いい。平気。」
必死に強がるけれど、心臓の鼓動は全身に響いていた。酸素が足りなくて、ハーハーと息を整える俺を、元太が心配そうに見つめている。
「げん、た、」
「ん？」
「……カラオ、ケ」
水を飲んでやっと落ち着いてきたけれど、絞り出した声はかすれてしまった。元太はキョトンとしていたけれど、少しして思い出したように小さく笑った。
「さっきの話、聞いてたの？」
「うん……。部活の、友達？」
「そうそう。あいつらとカラオケなんてさ、いつでも行けるからいーの。」
それより、今日一緒に帰ろうぜ！ママ迎えに来んの？どっか寄り道とかできそう？
弾んだ調子で飛んでくる元太の声が、耳を通り抜けていく。俺は元太にバレないように、机の引き出しに入れたノートの表紙をそっとなでた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
