・ ページ5
Side龍也
ころころっと机の上に何かが転がってきて、ノートから顔を上げる。
「……なに、これ。」
「ガム。」
「くれるの？」
「うん、誕プレ。」
誕生日なんか、もう2ヶ月くらい前だけど。
ツッコむのも面倒くさいから、もう何も言わない。俺とクラスメイトのちゃかしかいない教室に、一瞬沈黙が流れた。
「……ちゃか、行かなくていいの？」
「どこに？」
「授業、体育でしょ。今行けば間に合うんじゃない？」
俺は運動禁止だから出られないけど、ちゃかが体育を休む理由はない。ちゃかは校庭の方を一瞬見て、すぐこっちに視線を戻した。
「しめがノート返してくれたら、行くよ。」
「え、これ？」
昨日休んでた分の、授業のノート。ちゃかに借りて自分のノートに写していた手が、ピタッと止まる。
「別に今やらなくてもいいんじゃない？」
そんな顔色で、と付け足しながら、ちゃかは俺の机からノートを取り上げた。
「ちょ、返し……っ、けほっ、こほ、っ…」
「ほら、無理するから……。お前、今朝からずっと具合悪そうじゃん。保健室で休んできたら？」
「……やだ。」
だって、保健室にいったら絶対如恵留に連絡が行く。それだけは嫌だ。
「ほんとに大丈夫だから。それ、もっかい貸して。」
そう言って、ちゃかが持ったままのノートに手を伸ばす。でも、指先はあとちょっとのところでそれに届かなかった。
「…っう……。」
ドクン、と心臓が跳ねて、思わず胸を押さえる。正面に座ってるちゃかが、慌てて立ち上がるのが分かった。
「……っ、くす、り」
ちゃかが俺のカバンをひっくり返してる間も、暴れる心臓に呼吸が置いて行かれる。
今朝も発作が起きて薬を飲んだのに、またすぐ発作が起きてるこの状況がどれくらいヤバいか、ずっとこの心臓と生きてきた俺にはもうよくわかっていた。
「…ごめっ、あ、と、救急、車、」
シャツの胸元が、自分の手の中でくしゃくしゃになる。心配そうに眉間にしわを寄せる如恵留の顔が、頭の中にふっと浮かんだ。
「……っ、ごめ、ん、のえ、るっ…」
やっぱり、迷惑かけることになっちゃった。ごめん、如恵留。こんな弟で。
むき出しのガムが床に落ちるのを見たところで、俺はもう目を開けていられなくなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 238人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
