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Side海斗
「おかえり、海斗。」
玄関で立ち尽くしている俺の耳に、聞き慣れた声が飛び込んでくる。
「……父さん?」
「こんなびしょ濡れになって、風邪引いたらどうすんの。」
少し怒っているようにも聞こえる父さんの声が、パタパタと忙しない足音と一緒に近づいてくる。雨に濡れたせいでさっきまであんなに体の震えが止まらなかったのに、今は不思議と寒さを感じなかった。
「……っ、父さん、俺、怖かった……!」
近づいてくる気配に向かって、必死に両手を伸ばす。
でも、その手が温もりに届くより先に、俺の体に痛みがはしった。
「……ぃと、海斗!」
体を揺さぶられて、また全身に痛みがはしる。思わずうめき声をあげると、俺の体を揺らしていた手の動きが止まった。
「海斗、わかる!?俺!」
「あぁ、海人、か……。」
かすれた声を絞り出すと、「よかったぁ」と力の抜けた海人の声が聞こえた。体の痛みも寒さも、すっかり戻ってきている。さっきのは夢だったんだと、上手く働かない頭で理解した。
「海斗、とりあえず中入ろう。体、マジで冷たくなってるよ。」
頷いて起き上がろうとしたけど、体に上手く力が入らない。そんな俺の様子に気づいたのか、海人はゆっくり俺の体を起こして座った体勢にすると、膝の後ろに手を入れて軽々と俺を持ち上げた。
「マジで焦った……。海斗、玄関でぶっ倒れててすげえ冷たくなってたんだもん。」
やっといつも通りに戻った声音で海人がそう言ったのは、この季節にしてはありえないくらい暖房を利かせた部屋に風呂を済ませた俺が戻ってきたときだった。
「死んでると思った?」
「いや、マジ冗談抜きでそうかもって思った。合鍵持っといててよかった……。」
キッチンの方から、電子レンジの止まった音がする。海人が買ってきた晩ご飯の弁当を温めてくれたらしい。
「……で、何があってあんなずぶ濡れでぶっ倒れてたわけ?」
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは!コメントとっても嬉しいです( ; ; )こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました!! (9月3日 17時) (レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2023年8月20日 19時