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Side元太
「元太、私たちも後から行くからね。」
「先生たちの言うこと、ちゃんと聞くんだよ。」
いつもよりちょっと硬いパパとママの声を、横になったまま聞く。
新しい病院に、俺は救急車で行くことになった。点滴とか酸素がないと俺はもう生きていけないんだから、しょうがない。
パパとママは、俺を追いかけて今日中に新しい病院に来てくれるらしい。
「元太、」
俺が寝てる間も、兄ちゃんはずっと起きててくれたんだろう。赤い目をした兄ちゃんが、俺の横に立つ。
「……兄ちゃん、ごめんね。」
「なんで元太が謝るの。」
だって、俺のせいで受験前の兄ちゃんが家に一人ぼっちになっちゃう。
昔っから、俺は兄ちゃんからパパとママを奪ってばっかりだった。何でも1人でできちゃう兄ちゃんも、パパとママの前では強がる兄ちゃんも、全部俺が病気なせいで出来上がったんだ。
「元太。ちょうど、1週間後なんだってね。手術、受けるの。」
「……うん。」
「その日ね、受験の日なの。大学の、入試。」
「え…」
「一緒だね、元太。俺たち、1人じゃないね。」
兄ちゃんは、優しく笑って俺の手を握った。
ストレッチャーに乗せられて、病院の出口に着くまで兄ちゃんはずっとその手を離さないまま俺の隣を歩いてくれた。
本当はずっとそうしていてほしかったけど、さすがにもう行かなきゃいけない。外につながってる自動ドアの前で、兄ちゃんの体温が離れた。
「……兄ちゃん、」
「ん？」
「あり、がと。会いに、来てくれて。」
「……元太、」
「今度、は、俺が行くから。元気、なって、会いに行く。兄ちゃんのとこ、帰る、から。」
兄ちゃんは、何も言わなかった…………っていうより、何も言えなかったんだと思う。笑ったかと思ったらすぐに顔をくしゃくしゃにして、俺のおでこに自分のおでこをくっつけた。
「……絶対だよ？」
「絶対。またね、兄ちゃん。」
俺も兄ちゃんも、十分頑張った。だから、もう「頑張れ」はいらない。約束が一番のエールだ。
俺の顔に落ちた涙を拭いて、兄ちゃんが離れていく。ストレッチャーが進み出して、自動ドアの開く音がする。風が冷たい。
救急車に乗る前。一瞬だけ見えた空はどこまでも広くて、優しい青色が溶けていた。
「ひとりじゃないから」fin.
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは！コメントとっても嬉しいです（ ; ; ）こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました！！ (9月3日 17時) (
レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おさと | 作成日時：2023年8月20日 19時
