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Side如恵留
今夜は元太くんのそばにいてあげて、と顔なじみの看護師さんに言われたのは、元太が眠ってしまってからすぐのことだった。
両親や病院の人たちで話し合って、俺が元太の病室に泊まることを許可してくれたらしい。元太が本当に小さいときからお世話になっている人たちの優しさが、痛いくらいにしみる。
だからこそ、明日の朝この温かい場所を離れなくちゃいけない元太の不安がどれだけ大きいかを想像すると、余計に胸が痛かった。
少しでも心細い思いをさせないようにと元太の近くにいても、俺にできることは何もない。元太は圧倒的に眠っている時間の方が長いし、たまに目を開けたかと思うと苦しそうに胸のあたりに手をやったりする。そういう時俺ができることと言えば、せいぜいナースコールを押してあげたり手を握って声をかけたりするくらいだ。
ほとんど言葉もかわせず、歯がゆさに押しつぶされそうになりながら、どれくらいの時間が経っただろう。病室の外に人の行き来をほとんど感じなくなった頃、元太がゆっくりと目を開けた。
「……にい、ちゃ、」
「元太……!大丈夫?苦しい?」
「だいじょーぶ。………おれ、ね。兄ちゃんに、いっこ、聞きたいことあった。」
「聞きたいこと?いいよ、何でも聞いて。」
「さっき、兄ちゃん、言ったじゃん?俺に、会い、に、どこでも行くって。」
「うん。」
「……じゃあ、もし、俺が死んだ、ら?兄ちゃんは、」
元太はそこで言葉を切って、震える唇を閉じてしまった。息が切れたようにも、言葉を続けるのをためらったようにも見える。
「会いに行くよ。元太に会えるならどこだって行くって、言ったでしょ?」
俺を映す元太の目に、ふっくらと涙の膜が張る。元太は慌てたように目を閉じて、それからパルスオキシメーターがついている手で目元を覆った。
「……そん、な、…っはぁ、そんなこと、言われたら俺、死ねない、じゃん。」
泣き笑いの顔で、息も絶え絶えに言う元太の肩を、俺はたださすり続けた。
夜が明けるまで、ずっとずっとずっと、そうしていた。
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは!コメントとっても嬉しいです( ; ; )こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました!! (9月3日 17時) (レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2023年8月20日 19時