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「元太。誕生日、おめでとう。」
自分の手の中にある缶を、目の前にあるもう1本の缶にぶつける。“おめでとう”に“ありがとう”が返って来ないのは、やっぱり寂しい。
「元太が18才かー。」
わざと明るい声を出しながら、俺は缶に口をつけた。一口飲んで、喉の奥がきゅっと熱くなる。
俺はまだ誕生日が来ていないから、本当はまだ19歳だけど。でも、大学では2年生になれば飲みに行ってるやつらもいるんだから、少しお酒を飲むくらいいいだろう。
こうやって、元太と2人で飲むのが夢だった。きっと楽しかっただろう。お互い大人になって、仕事の愚痴なんか言い合うようになっていたのかもしれない。
「……っ、」
気づいたら、目の端から顎にかけてくすぐったい感触が流れ落ちていた。元太、俺って酔っぱらうと涙もろくなるタイプなのかな。
「……あまり飲みすぎないでくださいね。」
後ろから声が聞こえて振り返ると、紙袋を持った先生が立っていた。病室で誕生日会をやりたいなんて俺の無茶苦茶なお願いを聞いてくれた先生は、白衣を脱いで私服姿になっている。
「……よかったら、どうぞ。」
そう言って先生が俺に渡してきたその袋は、よく見ると近くのケーキ屋さんの袋だった。びっくりして先生の顔を見ると、一見きつそうな目が案外穏やかな雰囲気を持っていることに気づく。
「本当に、ほどほどにしてください。留学前に体壊したら、どうするんですか。」
「へ、」
留学?俺、先生に話したっけ?フワフワした頭で必死に考えるけれど、どうしてもそんな記憶を見つけられない。
「……元太くんから、聞いていました。」
混乱している俺とは違って、先生の目は真っすぐだった。真っすぐに俺を見て、言葉を区切るように話す。
「……どういう、意味ですか。」
昼間の違和感が、冷たい雫になって火照った頭の中に落ちる。白衣の胸ポケットにいた、猫のキャラクター。救急じゃなくて、小児科の先生だって言ったあの言葉。
まさか、まさか
「僕は、元太くんの主治医です。来週からの入院治療を、担当する予定でした。」
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おさと(プロフ) - もなかさん» もなか様、こんにちは!コメントとっても嬉しいです( ; ; )こちらこそ、素敵なリクエストを本当にありがとうございました!! (9月3日 17時) (レス) id: e06b49d6d2 (このIDを非表示/違反報告)
もなか(プロフ) - とても素敵なお話をありがとうございました!リクエスト自体初めてであんなざっくりした内容がこんな素敵なお話になるなんて思ってなかったです!キュッとなってホロリとしてホワッと心温まりました。ありがとうございました! (8月30日 22時) (レス) @page14 id: 4ecbc78f68 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おさと | 作成日時:2023年8月20日 19時