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「ご丁寧に連絡までくれたんだよ、あいつ。付き合うことになったって。俺のこと、Aちゃんの保護者かなにかと勘違いしてんのかな。」
そう言う如恵留くんの声は、あきれているようにも少し怒っているようにも聞こえた。
「…如恵留くんは、七五三掛さんのことが嫌い?」
「嫌い?どうして、」
「七五三掛さんが、言ってたの。俺は如恵留に嫌われちゃってるって。」
私の言葉に、如恵留くんは苦い顔をした。後ろに回していた手をベランダの手すりにのせて、少し遠くの方に視線を投げる。
「嫌われてるって言い方が、そもそもフェアじゃないな。しめだって、俺のことはあまり好きじゃないと思うよ。なんとなく気が合わないっていうか、感覚が違うっていうか…。こういうのって曖昧な感覚だけど、案外馬鹿にならないものでしょ?」
それは、たしかにそうだ。私が黙って頷くと、如恵留くんはなぜかますます困ったような顔をした。
「誤解のないように言っておくけど、俺たち今はそれなりに上手くやれてるから。昔はお互い子供だったから喧嘩もしたけど、もう20歳超えてるからね。」
私が頷くと、やっと如恵留くんの放つ空気が柔らかくなった。
「しめ、今は父さんがいる大学病院の循環器に通ってるんだ。別に精神科に来たって話は聞かないけどね。でも、治療が長いと心も辛くなる人が多いから。きっと、Aちゃんの存在にあいつも救われてるんじゃないかな。」
淀みなくすらすらと如恵留くんの口から出た言葉に、私は何も返事をできなかった。黙り込んでしまった私を、如恵留くんが怪訝な顔で見る。
「…どうしたの?」
どうもしないよ、と言いたかった。でも、上手く声が出せない。代わりに出てきたのは、涙だけだった。
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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時