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「如恵留くん、」
「どうしたの、こんなところで。体冷えるよ？」
目を丸くした如恵留くんは、私の手元にあるスマホを見るとほんの少し顔をしかめた。
「…別に、部屋の中で電話したっていいんだよ。誰に聞かれるわけでもないんだし。」
「うん。でもなんとなく、外に出たくなって。」
「……そっか。」
如恵留くんは小さく頷くと、私と体一つ分の距離を開けてベランダの手すりにもたれた。その手に握られた箱を見て、今度は私が目を丸くする。
「…如恵留くん、吸うの？」
骨ばった手の中にあるのは、煙草の箱だ。それも、電子タバコではない。意外に思って私が見つめていると、如恵留くんはきまり悪そうに頭の後ろを掻いた。
「時々ね。普段は、そんなに吸いたいと思わないんだけど。」
そう言うと、如恵留くんは隠すように煙草を持っている方の手を後ろに隠した。吸ってもいいと私が言っても、絶対に箱を開けようとしない。
「…寒くない？」
「私は平気。如恵留くんこそ、薄着だけど大丈夫？」
「大丈夫。アルコール入ってるから、体温高くなってるのかも(笑)。」
そう言うと、如恵留くんはいつもより低い声で笑った。夜の闇に溶けるようなその声は、暗い部屋の中で何度も私の耳をくすぐった七五三掛さんの声を脳裏によみがえらせる。
「…誰のこと、考えてるの？」
耳元でささやかれた気がして、私は思わず横に飛び退いた。でも、実際は如恵留くんと私の間に依然として体一つ分の距離があいている。
私が何も言えないでいると、如恵留くんは小さく息を吐いた。笑ったのか、ため息をついたのか、息づかいだけでは判断できない。
「しめとは、上手くいってる？」
唐突に聞かれて、私はますます戸惑った。如恵留くんには、七五三掛さんとのことは話していないはずだ。そもそも、あの夏以来如恵留くんとはゆっくり話もしていなかった。
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作者名：おさと | 作成日時：2023年4月16日 19時
