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“既読”の二文字がつくのがこんなに難しいことだとは、思いもしなかった。
あの夜送ったメッセージには返事が来るどころか、何日経っても読まれた様子すらない。
相当具合が悪いのかと思って如恵留くんにこのことを伝えると、如恵留くんは不思議そうに首をひねった。
「…そんなにひどい状態ではないはずだけど。俺の方には返信も来てるし、一昨日あいつの病室にも行ったよ。」
「え…。」
それなら、どうして私のメッセージは読んでくれないんだろう。言葉を失ってうつむいた私を見て、如恵留くんは決心したように口を開いた。
「今日、行ってみようか。」
「行くって、」
「病院。ちょうど、父さんに届け物もあったし。」
そう言う如恵留くんの顔は、ほんの少し怒っているようにも見えた。
このときも、本当に言っていいのかとささやかな迷いが頭をかすめたけれど、それが私を止めることはない。
曖昧な迷いがはっきりとした輪郭をもち始めたのは、もう病院に着いてしまってからだった。
「俺、先に父さんのところに行ってくるから。少し待ってて。」
そう言って如恵留くんがいなくなってから、私の足は突然すくんだ。
行きかうお医者さん、看護師さんの歩くスピードの速さ。入院患者らしき人、車いす、点滴、独特の匂い。
決して遠い世界ではないはずなのに、ここが自分の日常とはほとんど交わらない場所だったことに今さら気づく。ここに彼もいるのだという事実に、私は打ちのめされそうになっていた。
「Aちゃん、お待たせ。」
行こうか、と言って歩き出した如恵留くんの背中に、私は「怖い」と言うことが出来なかった。ただ黙って、はぐれたら迷子になりそうなほど広い病院の通路を真っすぐに歩くその背中を、追いかけることしかできなかった。
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作者名：おさと | 作成日時：2023年4月16日 19時
