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「痛みを、分け合えたらいいのにね。」





私の言葉に、如恵留くんが目を見開く。







「…目の下にね、クマがあったの。」



「しめ?」



「うん。私、今日までそれに気づけなかった。眠れてなかったってことだよね。ずっと、具合が悪かったのかもしれない。」





横になると息が苦しくなったり、咳が止まらなくなったりするのは、心臓が悪くなっている兆候の一つらしい。私だって、何も知ろうとしなかったわけじゃない。今まで何度も、スマホや本で情報を集めてきた。





でも、情報はしょせん温度を持たない平面の情報でしかなかった。







「…あいつは、頑固でしょ?」



「うん。」



「こうと決めたら、なかなか曲げないからな。明るくいるって決めたら、もうずっと笑顔を貫くっていうか。そういうやつだからさ、俺なんかしめのこといまだによくわかんないよ。」





私は、無言で頷いた。本当に、明るくて穏やかに笑う人なんだ。まるで病気なんて、痛みなんて、知らないまま生きてきたかのように。







「…ねえ、如恵留くん。これから、どうなっちゃうのかな?」





これが、一番の無茶ぶりだろう。如恵留くんも言葉に詰まることがあるのだと、当たり前のことを私は今さらのように思い知っていた。







「…一度、きちんと話をした方がいいね。」



「できるかな?」



「できるよ。あいつが逃げようとしたら、俺が止める。」





とりあえず連絡を入れておいたら、と如恵留くんが提案をしてくれたから、私は龍也くんにメッセージを送った。心配していること、会える状態なら会いに行きたいことを、できるだけ簡潔に。







「…Aちゃん、ごめん。俺も、何もわからないけど。でも、一つだけ言えることがある。」


「なに、?」


「Aちゃんが、自分を責める必要はないってこと。」




本当に、訴えかけるような必死の表情だった。この人は、どこまでも優しい人だ。








「…それだけ、言いたくて。」




そろそろ帰るね、と言って、如恵留くんは立ち上がった。





「…行っちゃうの?」


「俺が一晩中ここにいたって知ったら、さすがにあいつもいい気しないでしょ。」


「でも、如恵留くんは家族だよ。」



私の言葉に如恵留くんは一瞬寂しそうに微笑んで、「そうだね」とつぶやいた。




そして私の頭を撫でると、如恵留くんは車のキーを手に取った。

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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時

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