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「…Aちゃん、やっぱり今日は家に来ない？」
ためらいがちに如恵留くんがそう切り出したのは、車が私のアパートの前に着いてからだった。
「でも、こんな時間にいきなりお邪魔したら迷惑になるし。それに、」
「それに？」
「……今は、あんまり人と会いたくないの。」
そっか、と消え入りそうな声で言うと、如恵留くんは軽く視線を宙にさまよわせた。ポンポンと2回、その手が車のハンドルを軽く叩く。
「…もし、許してくれるならだけど、」
「うん？」
「少しだけ、Aちゃんのそばにいさせてくれないかな。」
私が返事に困っていると、如恵留くんは体ごとこっちを向いた。運転席と助手席は思ったほど離れてはいないことを、今さら実感する。
「ごめん、Aちゃんは嫌かもしれないけど。でも、どうしても今のAちゃんを1人にするのが心配なんだ、俺が。俺の、勝手な気持ち。」
あまりに真っすぐに見つめられて、思わずたじろぐ。でも、嫌な感じは全くなかった。その視線が、誠実な優しさに染まっていたからかもしれない。
「…如恵留くん。」
「うん、」
「一緒に、帰ろう？」
そう言って私が車を降りると、如恵留くんも静かに車のドアを開けた。
「Aちゃん、お腹空いてない？何か食べる？」
部屋に入って少しすると、如恵留くんは私にそう訊いてきた。部屋の壁に背中を預けて、スマホ片手に私の方を見ている。
「…今は、いいや。」
「食欲ない？」
うん、と頷くと、如恵留くんは少し悲しそうに微笑んでから、何も言わずにスマホをポケットにしまった。
「食べろって、言わないの？」
「言うと思った？」
「うん。普段の如恵留くんなら、何か食べなさいって言いそう。」
俺お母さんみたいじゃん、と苦笑いをしながら、如恵留くんはペタッと床に座り込んだ。
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作者名：おさと | 作成日時：2023年4月16日 19時
