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私の連絡を受けて駆けつけてくれた閑也さんは、龍也くんを連れてすぐに病院に向かった。
1人彼の部屋に取り残された私は、どうすることもできずただ呆然と冷たい床に座り込んでいた。どれくらいそうしていたか、肩のあたりが冷えてきたのを感じたとき、スマホの無機質な着信音が部屋の静寂を破った。
「…もしもし、」
『もしもし、Aちゃん?大丈夫?』
その声を聞いた瞬間、私は反射的に名前を呼んでいた。
「…如恵留、くん?」
『うん、俺だよ。如恵留。ねえ、Aちゃん。今どこにいる?』
「今、は」
七五三掛さんの部屋、と答える声は、勝手に震えてしまった。久しぶりに呼んだ名字が、舌の上でざらつく。
『そっか。俺、今からそっち行くからさ。Aちゃん、待っててくれるかな?』
わけがわからないまま、私は「待ってる」と答えた。まるで幼稚園の先生のように、ゆっくり語り掛けてくる如恵留くんの声を聞いているうちに、凍り付いてしまったように動かなかった体に血が通い出したように感じた。
電話を切ってから、私はようやく立ち上がることが出来た。
閑也さんは、ここに来たときこの部屋の鍵を持っていた。合鍵だろうか。1つ鍵が残っているから、こっちが龍也くんの使っている鍵なのかもしれない。
私は自分の荷物とその鍵を持って、彼の部屋を出た。幸い、見つけた鍵はこの部屋の鍵で合っていたらしい。ドアの鍵を閉めた瞬間全身の力が抜けて、私はその場に座り込んでしまった。
昼間はまるで初夏のような陽気だったのに、すっかりあたりが暗くなった今は風が冷たい。私は自分で自分を抱きしめるようにして、ひたすら体を震わせていた。
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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時