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「ねえ、寝るなら横になって休もうよ。」
部屋に着くなり、ベッドに座ってうつらうつらと舟をこぎ出した彼の肩を、軽い力で叩く。彼はだるそうに目を開けると、半分夢の中にいるみたいな声を出した。
「…いいの、これで。」
「でも、座ったままじゃ体が休まらないよ。」
「じゃあ、Aちゃん一緒に寝てくれる?」
こんな時まで何を言ってるんだと少しあきれたけれど、私は半ば投げやりな気持ちでベッドの端に寝そべった。
「…ほら、寝てください。」
「はーい…。」
珍しく甘えた感じだな、と思いつつ、私はあくびをかみ殺した。慣れない仕事をしたせいか、体は想像より疲れていたらしい。足音も立てないで近づいて来た睡魔に、私はそのまま包まれてしまった。
…はぁ、、は、ゲホゲホっ、!
「…っ、龍也くん!?」
咳き込む音で一気に目が覚めて、私は飛び起きた。隣にいたはずの彼が、いない。
慌てて視線を移すと、苦しそうな咳はキッチンの方から聞こえていた。
「…っ、大丈夫!?」
「…だ、だいじょ、ハァ、…っぅ、」
苦しそうに胸を押さえてうずくまる彼の背中を、私は夢中で擦った。肩も背中も、手も、冷え切っている。
「どうしよう、救急車っ…」
慌ててスマホを取り出した私の手に、震える彼の手が触れた。見ると、必死に首を横に振っている。
「さっき薬、飲んだから……っはぁ、、も、少し、」
でも、と食い下がろうとすると、彼の体にますます力が入るのが分かった。まるで、駄々をこねるように。
「…わかった。わかったから、ゆっくり息しよう?」
なだめるように背中をさすりながら、私は閑也さんに電話をかけた。すぐに向かうという返事に、涙が出そうになる。
キッチンの青白い光の下で、私たちは一歩も動かず床にしゃがみこんでいた。苦痛に耐える彼の目の下には、よく見るとクマが浮かんでいる。
インターホンが鳴るまで、私は今初めてそれに気づいた自分を責めることしかできなかった。
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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時