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「ねえ、もしかして具合悪いんじゃ、」
言いかけたそばから、つかんだ手の冷たさにまた私は驚かされた。しかも、指先がかすかに震えている。
「少し休ませてもらった方がいいよ、!」
私の言葉にも、彼は首を横に振るだけだった。声を出すのも苦しい、といった感じだ。白いシャツの肩が、速いペースで上下している。
「今、忙しいから。休んで、られない…。」
「……じゃあ、私がやる。」
そう口走ると、私は立ち上がって店の奥へと彼を引っ張った。「何言ってんの、無理だよ」とか細い声がするけれど、聞こえないふりをする。
「閑也さん!」
キッチンに顔を出して声をかけると、閑也さんは驚いた顔でこっちに来ようとした。それを、龍也くんが手で制する。
「…っ、だめ、しず。危ない、から。」
閑也さんは我に返った様子で、自分の手元に視線を向けた。右手には、しっかりと包丁が握られている。
「…ごめん、Aちゃん。しめのこと、奥で休ませてやって。」
そう言って、閑也さんは目だけで壁と同じ色のドアを示した。私は頷いて、そのドアを押し開ける。
ドアの向こうは、本当にこじんまりとした事務スペースだった。書類が雑然と積まれた小さな事務机と、背もたれのない丸椅子が1つ。横になれそうなスペースは、どこにもない。
しかたなく、丸椅子を壁に寄せてそこに龍也くんを座らせた。彼は壁に背中を預けると、胸のあたりを押さえて苦しそうに息を吐いた。
「痛むの?」
ううん、と力なく頭が左右に振れる。
「ちょっとね、息が、苦しいだけ。は、……ケホケホっ、初めて、じゃ、ないから。心配、しなくて大丈夫。」
そう言うと、彼は壁から背中を離した。ずっとここにいたいけれど、私がいつまでもグズグズしていたら、この人は意地でも店に出ようとするだろう。
「…私、お店の方手伝ってくるね。エプロン借りてもいい?」
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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時