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いつの間にか、また眠ってしまったらしい。目が覚めたときには私を包んでいたはずの体温がなくなっていて、代わりに漠然とした不安感が体にまとわりついていた。
そっとベッドを抜け出してトイレを済ませてから、もう一度部屋に戻る。
昼を軽く蹴り飛ばして、夜に片足を踏み入れてしまったような薄暗い部屋。机の上の小さな照明だけが点いていて、七五三掛さんはそこに座っていた。
私は彼の背中に寄りかかって、手元を覗き込む。ん？と振り返る声は、低いけれど相変わらず柔らかかった。
「目覚めちゃった？」
「うん。ちょっと寝すぎたのかな、嫌な夢見てた気がする。」
そう言うと、七五三掛さんは体ごと私の方を向いて頭をなでてくれた。部屋の電気をつけると、昼ごはんを食べていた時と同じ位置に私を座らせる。
「…本、読んでたの？」
うん、と返事をしながら、七五三掛さんは私の隣に胡坐をかいて座った。
「珍しい…。」
「失礼だなあ(笑)。」
少し困ったように笑う顔は、どこか寂しげだった。キュっと両端を持ち上げたままの唇が、遠慮がちに開く。
「…探し物してたの、Aちゃんの本棚。」
「探し物？」
「うん。ごめんね、勝手に。」
それからまた閉じてしまった唇は、震えながらむずむずと横に伸びたり縮んだりを繰り返していて、それはまるで泣くのをこらえているみたいに見えた。
「…ひさかたの、」
「え？」
「ひさかたの、光のどけき春の日に、しづ心なく、花の散るらん、」
小さい頃に歌った童謡を思い出すように、急に和歌を口ずさみ始めた彼の声を、私は驚きとともに聴いていた。呆気に取られていると、七五三掛さんの目が不意に私を映す。
「…知ってたの？」
「これだけね。Aちゃん、これの意味って分かる？」
「うん、えっと…」
私は立ち上がって、本棚から現代語訳のついた本を取り出した。口頭で伝えてもよかったけれど、なんとなく今はこうした方がいいように思えた。
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作者名：おさと | 作成日時：2023年4月16日 19時
