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ようやくお昼ご飯を食べ終えると、また眠気に襲われる。どれくらい眠れば気が済むんだろうと、自分にあきれつつのそのそとベッドに潜り込んだとき、テーブルに伏せて置かれていた七五三掛さんのスマホが鳴った。
「うわ…」
画面を確認するなり、七五三掛さんが顔をしかめる。私に気を遣っているのか、わざわざ外に出ようとする彼を、私は慌てて呼び止めた。
ごめんね、と小声で謝りながら、それでも私から少し距離を取って七五三掛さんがスマホを耳にあてる。
「…もしもし。なに、急に。……大丈夫だって。普通に元気。…うん、それは親父も。わかったって、ちゃんと電話するから。」
やり取りはごく短い時間で終わって、スマホを元の場所に置いた七五三掛さんが小さく息を吐く。
「お父さん?」
「…聞こえてた?」
気まずそうに苦笑いをしつつ、七五三掛さんはベッドのそばに腰を下ろした。
「お父さんと話してるの、なんか新鮮。当たり前かもしれないけど、いつもと雰囲気が違うね。」
「なんか、恥ずかしいな(笑)。」
「だけど、なんでだろう。すごくしっくり来た。初めて会ったときのこと、思い出しちゃった。」
「初めてって……図書館で会ったとき?」
「うん。あの時……ごめんね、ちょっとチャラチャラした男の子って感じがしたの。それこそ、親父って呼ぶのが似合うような。」
黒歴史だ、と力の抜けた声でつぶやくと、七五三掛さんはベッドの端に頭を預けた。淡いピンク色のシーツの上で、髪がさらさらとかすかな音を立てる。
「ご実家には帰ってるの?」
「…ううん。」
全然、と首を横に振ると、目に浮かんだ寂し気な色を隠すようにそっと目を閉じた。
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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時