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念のため玄関にタオルを用意してから、仕方なくベッドに横になる。薬が効いてくれたのか、締め付けられるようなお腹の痛みはない。









遠くに感じる雨音を聞きながらぼんやり天井を見つめているうちに、玄関のドアが開く音がした。とっさに目を閉じて、毛布を肩の位置まで引き上げる。







「Aちゃん、玄関の鍵開いてたよ……って、寝ちゃったか。」





「寝ちゃったか」の部分だけ声の色が変わったのを新鮮に思いつつ、私はしばらく聞こえる音に耳を澄ませた。







買い物袋を床に置いたらしき音、手を洗う音。





そこまで聞いてから、私は慎重に目を開けた。キッチンに立つと、ベッドからは後姿しか見えない。幅は広くないけれど、男性らしい輪郭をした背中が彼には似合わないほどせかせかと動いているのが見える。







床に置いた紺色のバッグから七五三掛さんが取り出したのは、プラスチックのケースだった。ピルケースという言葉をとっさにあてはめられないほど、大きさのあるケース。彼は何の感情もうかがわせない動きで中身を取り出すと、よどみなくそれらを口に運んだ。









「……ん、」





たまらなくなった私は、たった今起きたというような声を出しながら目をこすった。薬を飲み終えたらしい七五三掛さんが、キッチンの台に手をついて息を整えるのをなんとか見届けてから。







「起きた?」



「…うん、」





彼の喉仏がこくりと動くのを見ながら、私は精一杯の寝ぼけた声を出した。









それから私は、七五三掛さんが買ってきてくれたパンとカップスープをゆっくり食べた。先に食べ終えた彼は、珍しく何か本を読んでいる。





少し寂しくなった私は、その肩にそっと頭をもたれさせた。





「…どこか痛い?」


「ううん。もう、大丈夫。」


「よかった。気分も、落ち着いた?」


「うん。さっきは、本当にごめんなさい。」




七五三掛さんは私の肩にそっと手を回すと、優しくさすってくれた。





「いつも、しんどくなっちゃうの?」


「毎回ってわけじゃないんだけど。でも、何て言うんだろう…。割れやすい風船、みたいになるときはあるかな。心が。ちょっとちくっとしただけで、割れちゃいそうになる。」




そっか、と七五三掛さんが控えめな相槌を打つ。その何気ない話の聞き方が、今の私にはひどく心地よかった。

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作者名:おさと | 作成日時:2023年4月16日 19時

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