「千本でも一万本でも飲んでやるよ」 ページ7
side如恵留
「何食べようかな〜。」
そう言いつつ、しめの目はメニューの表面を上滑りしていく。
飲食店の個室に、2人きり。俺もしめも、酒は頼まなかった。
「如恵留、飲まないの？」
「飲む流れじゃないでしょ。話の内容的に。」
「俺は飲んでもらった方が楽なんだけど。」
冗談っぽく言いつつ、低い声で笑う。俺と仕事の話をするときに見せる、大人の顔だと思った。
「…本当にいいの？最初に聞くのが俺で。」
しめは、無言で頷いた。お気に入りのバッグから、おもむろに封筒を取り出す。
「……再生不良性貧血。」
封筒の中から出てきたのは、いくつかの資料だった。一番上にあった、患者向けらしきパンフレットの表紙を読み上げる声が震えた。
「知ってる？」
「聞いたことは、ある。」
そうは言っても、知識とも呼べないような曖昧な認識しかない。名前と、おそらく難しい病気だということだけ。
「…辞めないよ。」
鋭い声に、俺は顔を上げた。しめは何かをにらみつけるような目で、資料をじっと見つめている。
「……でも、体は」
「ちょっと前からだけど、薬飲んでるんだ。これが効いてくれれば、大丈夫。」
全部辞めないよ、と言うしめの声は、自分に言い聞かせているみたいだった。強い決意に満ちたその顔に、声をかける。
「俺に、できることは？」
「……じゃあ、秘密にしててくれる？みんなに。」
え？と聞き返す声が、裏返った。"みんな”が誰を指すのか、聞かなくてもわかってしまう。
「どうして、」
「さっきも言ったけどさ、今飲んでる薬でよくなったらそれでいいわけじゃん？そしたら、病気のことみんなにも言わないで仕事続けられるし。」
「でも…」
そんなに簡単な話じゃないとしめを否定するには、あまりに俺も知識不足だった。俺が黙っているうちに、しめがずいっと身を乗り出してくる。
「約束だからね。」
破ったら針千本だよ、と笑う顔は小悪魔という言葉では片付けられない凄みがある。
メンバーに気を遣っているようで微妙に自分本位なことをしようとしていることに、しめは気づいているだろうか。
そんなことを思いながら、俺は密かに天井を仰いだ。
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おさと(プロフ) - 七桃さん» 七桃様、コメントありがとうございます！そう言っていただけて、とっても嬉しいです😭これからもお楽しみいただけるように頑張ります！ (6月20日 20時) (
レス) id: de6645fa3a (このIDを非表示/違反報告)
七桃(プロフ) - 短編集の時からおさとさんの小説読んでて、ほんとに好みすぎます……♡笑 これからも楽しみにしています！ (6月18日 23時) (レス) @page7 id: 224ce8b2d8 (このIDを非表示/違反報告)
おさと(プロフ) - はなさん» はな様、コメントありがとうございます！貴重なご意見もお寄せくださり、ありがとうございました😊亀更新ですが、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです！！ (6月13日 7時) (レス) id: de6645fa3a (このIDを非表示/違反報告)
はな - こんばんは😊お話楽しみにしてます！ (6月11日 22時) (レス) id: 1e8df6407a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：おさと | 作成日時：2023年6月11日 21時
