【実況者】恋愛恐怖症【ky】

Part2 ページ3

『…さっむ』


季節は秋。

あんなに暑かった夏が嘘のように街には冷たい風が吹いていた。

上着羽織って正解だったな、と思いつつ歩を進める。


金曜日の夜。


世は俗に言う華金と言うやつで、これから飲み会に出かけるサラリーマンや
既に出来上がってる学生たちでごった返している。


そういえば学園祭の時期でもあるな。

今が1番輝いてるとでも言いたそうなキラキラした人たちを抜け
私はゲーム屋に入った。




『(たしかお兄ちゃんの言ってたゲームは…)』

兄からのオーダー通り、先週発売したばかりの格闘ゲームを探す。


『(ん、あった)』


視界に入ったそれは如何にも
いま売れてます！と言いたげなポップに囲まれ
幸運にも残り1つとなっていた。


『(明日にしなくてよかった。)』


そう思いそのゲームコーナーへ足を進める。


すると、私がそれを手に取るより先に


別の男性がそのゲームを手に取った。


『あっ…！』


私は残りひとつのそれを先に手に取られてしまったことで

失礼にも声を上げてしまった。


その声に男性は反応しこちらを振り向いた。


『(やば…)』


別に私のだと言いたかったわけでも譲れと言いたかったわけでもない。

ただ単純に声が出てしまったのだ。

しかし目の前の男性には私が譲れと言いたげなように映っているかもしれない。


ああ…最悪だ。

マスク越しで表情まではわからないが

襟足を赤色に染めている上に、こちらを見る目つきは鋭かった。


『(ヤンキーか…？いや、人を見た目で判断するのも…ただ単になんだコイツと思われただけかもしれないし…)』


必死に思考をフル回転させつつもその場から動けずにいると


男性はおもむろに口を開いた。


「あの…あんまり騒がないでもらっていいですか…。すみません。」


『…はい…？』


予想外の言葉だった。
私は騒いだ覚えもなければこれから騒ぐ予定もない。


あの小さな一言がそんなにカンに触ったのだろうか。


しかし目の前の男性は別に苛立ちを向けているような表情はしておらず

むしろ申し訳ないというような表情と声色だった。


何が何だか理解できなかったものの
失礼な声を上げたのは事実だったため私は素直に謝罪することにした。


『すみません。私もそのゲーム買おうと思ってたのでつい声が出ちゃって…失礼しました。』


「…え？」

『…えっ？？？』


私はなにかおかしなことを言ったのだろうか。


ただただ目の前の男性がわからなかった。

Part3→←Part1

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す