148.(side T.O) ページ49
覗き込んだ俺の目を真っ直ぐに捉えて、Aの瞳が、揺れた。
「…貰えないよ」
「なんで？」
「…なんでって。明日、出てくのに？」
「明日出てくから、今プレゼントしてんねん。ええから、はよ開けて？」
催促した俺が引かん事を悟ったのか、諦めたように１つ溜息をついて、丁寧に包装を解きながら。
静かに…せやけど、確実に。
Aの瞳が滲んでいく。
最後にケースをゆっくりと開いて。
「……綺麗だね」
それを見つめたまま、その目からとうとう涙がこぼれた。
「せやろ？つけてもええ？」
「…ん」
「ん。ほな向こう向いてて？」
素直に俺に背を向けた、Aの首に光るネックレス。
クルリと体の向きを戻して、濡れた瞳でAが俺を見上げた。
「うん。ええやん。似合うてるわ」
「…忠義くん、最後までズルい」
「当たり前やん。わざとやもん」
Aが俺の事忘れへんように。
そんで散々後悔すればええねん。
後悔して、やっぱり俺がおらんとアカンて気付いたらええ。
ちょっとくらいやったら待っててやらん事もないで？
Aの首元でキラキラ光るネックレス。
想像より似合うてる。
ちょっとした満足感に包まれて、ゆっくりと指でなぞっていく。
「…A？」
「…うん？」
「……ほんまに似合うてる。ほんま…綺麗やで」
「ん…ありがと」
小さく呟いたAを引き寄せて、唇を塞いだ。
今日はもう嫌って言うほどキスしたんねん。
俺もAの事忘れへんように。
深くなっていくキスで甘く溶かして。
テーブルに並ぶ料理は置き去りに。
「…ベッド行こ」
もつれるように2人でベッドに沈み込む。
身体中にキスを落として、俺の跡を残して。
小さく声を漏らしながら反応するAを目に焼き付ける。
蕩けた顔も、乱れる柔らかな体も、漏れる吐息も、甘い声も、俺に縋るその指先まで。
Aの全部を体と頭に刻み込んでいく。
「…A」
「ん…」
「Aっ…」
「忠義…」
「…やば…もっと呼んで」
「…忠義っ」
「…もっと」
「忠義…っ！も、…っ」
「っ、俺も…っ」
何度も名前を呼んで、Aにも俺を刻み込んで。
このままお互いの熱でドロドロに溶け合って、１つになってしまいたい。
そうしたら離れんでも済むのになぁ。
「──A、愛してる」
最後に囁くのは、自分でもズルいと思う甘いセリフ。
どうしても別れの言葉だけは言えへんかった。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年7月3日 18時
