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家を出る日は、最後にAの作った料理をゆっくり食べたい、と忠義くんの希望もあって仕事の予定に合わせて決めた。
それからはどこか穏やかで。
昼間は店の片付け。電話が鳴ると相変わらずだし、もう必要ないから1番に止めた。
いつきさんにも店を辞める報告を済ませた。
最後まで心配を掛けちゃったけど、戻って来るならいつでも相談しろ、と言ってくれて。いつきさんには感謝しかない。
一通りやる事を済ませた後は、遅くに帰ってくる忠義くんを待って。
寝るまでも、寝てからも。とにかく忠義くんの体温を感じたくて、今まで以上にくっついてるんじゃないかと思うくらい側にいた。
一緒に過ごす残り少ない時間を、頭と体に刻み込む。
最後の日に、泣かなくて済むように。
もう充分て思うくらい、忠義くんでいっぱいになっておきたかった。
合間にバイトの3人にも連絡を入れた。
みんなにはちゃんと顔を見て謝りたくて、予定を合わせて店の近くのカフェで待ち合わせ。
勝手に店を休んだ事。
心配を掛けてしまった事。
待っていてくれると言ったのに、店を辞めて地元に戻る事。
ちゃんと自分の口で伝えたかった。
「…待っててくれたのに、こんな事になってごめんなさい」
「謝らないでください！そんなの言いっこなしですよ！」
「私達だってAさんが大変な時に、何にも力になれなかったし」
「別に永遠の別れでもないですしね？」
頭を下げる私に、3人が慌てた様子で次々と口を開く。
永遠の別れではないけど、年齢も違う、住む場所も離れてしまう、そんな私たちが会う事はもうきっとほとんどと言って良いほどないだろう。
みかちゃんとゆみちゃんは今年大学卒業だから、社会人になる2人を見たかった。
もしお店があれば、仕事帰りの2人がふらっと寄ってくれて、しげるくんと楽しそうに話す、そんな姿も見れたかもしれない。
卒業だって、お祝いしたかった。
「卒業旅行、ゆみと2人でAさんに会いに行きます」
「えぇ？それはどうかと思う…卒業旅行はもっと良いとこ行きなって。なんにもない所だから来ても面白くないよ」
「…なんにもなくないですよ。Aさんがいます」
「わぁ…ちょっと…最近涙腺おかしいから、そういうのやめてぇ」
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年7月3日 18時
