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「わ、お久しぶりです」
「お店、再開するの？」
「すみません。今日はちょっと空気の入れ替えに寄っただけで…でも近いうちに必ず」
「楽しみにしてるよ。うちのも心配してたから」
「ありがとうございます。突然お休みしちゃってご迷惑お掛けしました」
「迷惑なんて、そんなね。ちょっと寂しかったけど。まぁ、元気でさえいればなんとでもなるもんだよ」
ね、と優しい笑顔が向けられる。
自分勝手な突然のお休みなのに、村上さんの言う通り、待っていてくれるお客さまがいる。
こんなにありがたい事はない。
常連さんは無理せずゆっくり休んで、と最後まで優しい言葉を残して帰って行った。
おかげですっかり心があったかくなって、胸を弾ませながら掃除の続きに取り掛かる。
やっぱり早くお店を再開したい。
湧き上がるそんな気持ちを打ち砕いたのは一本の電話だった。
店もずっと休みだったし電話なんてなるはずがないと思ってた。
だけど、前触れもなく鳴り始めた電話の音に、ドクンと心臓が跳ねた。
もう大丈夫、言い聞かせて受話器に手を伸ばす。
だけどそれに触れる前に浮かんだ投げつけられた心無い言葉たち。
…怖い。
…どうしよう、怖い。
そう思ったらあの日のようにズキズキと頭が痛み始めた。
出ようと思うけど、体が動かない。
「…はっ…っ、」
呼吸が浅くなっているのか、だんだん苦しくなってくる。
結局私はあの日のようにズルズルとしゃがみ込んで、ただ耳を塞ぐ事しか出来なかった。
電話が鳴り止んで、しばらくしてからようやく立ち上がる事が出来た私は掃除は途中で投げ出して、逃げるように店を後にした。
ただ電話が鳴っただけなのだ。
それなのに身動きすら取れなくなってしまって、自分がこんなに弱い人間だったなんて知らなかった。
さっきまでの弾んでいたはずの気持ちはあっという間に消えていく。
これじゃあ、再開なんて出来るはずがない。頭をよぎる大きな不安に飲み込まれる。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年7月3日 18時
