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一日何もせずにうちにいると、どうしても店の事を考えてしまう。
もちろん好きな人のために好きな料理を作るのは楽しい。
美味しそうに食べる姿は相変わらず癒される。
忠義くんの生活ペースに合わせて、体調を考えてフォローする事も出来る。
そんな生活は思っていたより幸せで、案外合っているんじゃないかと思う時もある。
だけど、ふとした瞬間に目に浮かぶのは、カウンターから見えるお客さんで賑わう店内の景色。
そうなるとあそこに早く戻りたいと思う気持ちが湧き上がる。
その癖に拭い切れない不安もあったりするから厄介だ。
ちょっとした悪循環に陥っていた。
そんな時はたいていぼーっとしてくれるらしく、忠義くんが心配そうに隣で手を握り締めてくれる。
不甲斐ない自分に申し訳なさもあるんだけど、その時間はただひたすら、私の気持ちを穏やかにしてくれた。
「はい、これ。土産」
「わざわざいらんのに」
「今日飲む分やから」
約束の時間ピッタリにやって来た村上さんは、玄関を開けるなり忠義くんに手土産のワインを手渡した。
ちょっとお高めのヤツ。
私には、人気の焼き菓子店の名前が入った紙袋。
「3時のおやつに食べ」
「ありがとうございます」
3時のおやつという可愛らしい言葉を漏らした村上さんに少し笑ってしまう。
何を笑てんねん、とすかさず突っ込まれてしまうけど、明日はこれを食べながら優雅に紅茶でも飲んじゃおうかと、素直に受け取った。
「信ちゃん、上がって」
「お邪魔します」
忠義くんに促されて、綺麗に靴を揃えてから部屋に向かう村上さん。
うわ、どっかの店みたいやん！とテーブルに並んだ料理を見て大袈裟な声を上げた。
「今日は腕によりをかけて作りました」
「なんやねん、それ。いつもはよりをかけてへんのか」
お礼を言う私に反応したのは何故だか忠義くんで、不満そうに口を尖らせてる。
「もー、そういう意味じゃないでしょ？」
「ほなどういう意味やねん」
「あ、村上さん、遠慮なく座ってください」
「おい、無視すな」
「…忠義くんの大事なお客様なので、いつも以上に頑張ったって意味です」
「…またすぐズルするわ」
「ズルじゃないし」
「…なぁー信ちゃん、今のはズルいやんな？」
「知らんがな！ほんなら大事な客の前で言い合いすな！」
最もな意見を口にされ、村上さんに一喝された私たちは顔を見合わせた。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年7月3日 18時
