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「…A……A！」
誰かに呼ばれて我に返った。
肩に手を置いて私の体を揺する、いつきさん。
いつきさんが入って来ていた事も呼ばれている事も全然気付かなかった。
「…なんで……」
「なんでって…記事見て心配だから来た」
どれくらいそうしていたのかわからないけど、それでもさっきまで鳴り響いていた音は止んでいて、静まり返る店内。
頭痛もいくらか和らいでいた。
いつきさんが言葉通り心配そうな顔で私を覗き込んでくる。
「大丈夫か？」
「…ちょっと疲れてて」
「疲れてるだけじゃないだろ」
溜息を１つ吐き出して、座り込んだままの私を起き上がらせた。
そのままカウンターまで手を引かれて、座るように促される。
素直に腰を下ろすと、いつきさんもその隣に腰掛けた。
「顔、真っ青。あの記事のせい？」
何があったかまでは聞かないけど、私の様子で察したんだろう。
「…多分」
「大倉さん知ってんの？」
「…少しだけ」
SNSのコメント欄が閉じている事はもちろん忠義くんはすぐに気付いた。
誤魔化しても仕方ないから素直に話をした。
忠義くんは何も悪くないのにごめんなと抱きしめてくれたけど。その顔が申し訳なさそうに、酷く悲しそうに歪んでいた。
またあんな顔をさせてしまうのかと思ったら電話の事は言えなかった。
また私の顔を覗き込んで、ふっと優しい笑顔を浮かべたいつきさん。
「実はさ、俺、子供も生まれたしそろそろ本社で社長に付くように言われてる」
何故だか突然そんな事を口にして、いつきさんが私に手を伸ばした。
かつてずっと触れたかったその大きな手が何度も優しく私の頭を撫で下ろす。
「だからもうあんまり可愛い妹の事ばっかり気に掛けてやれなくると思う」
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年7月3日 18時
