100.(side Y.Y) ページ1
じゃあ、とさすがに重かったらしく、彼女は遠慮がちに呟いた。
店に着いて、ついでに荷物を運ぶの手伝ったら、美味しい紅茶があるんですって引き留められてもうた。
一応断ってはみたものの、結局カウンターで彼女が紅茶を淹れてくれるのを素直に待ってる俺。
開店前のメンバーの彼女の店で何してんのやろ…。
「本当助かりました。ありがとうございます」
湯気の上がる紅茶を置きながら、また頭を下げた。
「や、ええよ。こっちこそごめん、迷惑やったやろ？」
「とんでもない！」
こちらこそお休みの日に迷惑掛けちゃいましたって、申し訳なさそうな顔しとる。
俺が送る言うたんやから、そんな顔せんでもええのに。
「…紅茶、めっちゃうまい」
「ふふ、気ぃ遣い〜さんですね」
「そんなんちゃうって」
紅茶は普通に美味しいから気遣ってるわけちゃうし、大倉の彼女やし、開店前でやる事あるやろうし、気遣わん方がおかしいやろ。
しかも別にこれといって話す事もないねん。気まずい事この上ない。
けど何も話さんわけにもいかんから。
「…大倉と一緒に暮らし始めたんやっけ？」
「…はい。まだ慣れないですけど」
「アイツ、いっつもニコニコで帰ってくで」
こないだまでそんな話し全然せぇへんかった癖に、俺らが店に行ってからは、A待ってんねん、とか言いながらご機嫌に帰っていく。
でもそんな大倉を見るんは案外嫌ちゃうし、素直に応援したいと思う。
こんな仕事しとるから、自分の恋愛が思うようにならん事なんて多々あって、それが嫌で反発する時期もあったし、大倉もそれなり以上にフラフラ遊んどった。
そんな大倉がニコニコと真っ直ぐに彼女の待つ家に帰る日が来るなんて、多少の驚きはあるけど。
俺らももうそういう年になってきたって事なんやろな。
大倉が優しい顔で彼女を眺める姿なんて見たら、やっぱり幸せでおって欲しいと願ってしまう。
俺の言葉に照れたようにはにかむ彼女は可愛らしくて、素直にそう思うねん。
しばらく彼女と大倉の話をしとると、いつの間にか紅茶は空になっとるし、結構楽しく話してた事に気付く。
さすがに長居は悪いからそろそろ帰ると彼女に声を掛けた。
「…いろいろ大変やと思うけど、大倉のことよろしく頼みます」
「こちらこそ不束ものですがよろしくお願いします」
「困った事あったら村上にでも言うてな」
「ふふ、横山さん本当に気〜遣い〜さんですね」
「…そんなんちゃうけど」
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年7月3日 18時
