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「Aちゃんちの合鍵」
「…それってプレゼント？」
「えー、やって俺しか持たれへんやろ？」
アカンの？と甘えた声を出して、私をそのまま抱き寄せた。
「最近店でちょこちょこ声かけられるし、Aちゃんとこ行き過ぎて迷惑になっても嫌ややねん。それに合鍵あったらいつでも来れるやん？」
確かに忠義くんに気付いて、時々お客さまが声を掛けている。
忠義くんは嫌がる様子もなく店長さんの作る料理が好きで、来れなくなると嫌やから騒がんといて下さいなんて言ってくれて、ニコニコと握手してくれるてるけど。
きっとちょっとしたストレスなんだと思うし、そのせいで余計に疲れてしまうんだろう。
高い物をお願いされても無理かもしれないけど。
別に合鍵なら、プレゼントじゃなくても渡すのに。
「嫌なん？」
「嫌とかじゃなくて」
「えー、ほな…んー、そやなぁ……」
忠義くんは、納得出来ない私にまた少し考えて、何かを思い付いたように急にニヤニヤして。
私の身体に指を滑らせながら、耳元に唇を近付けて来た。
今確か、誕生日に何が欲しいのか話してだけなのに。
伝う指と耳に掛かる吐息に、勝手に体が反応する。
「めっちゃえろい下着着けて、俺のこと誘うのとどっちがええ？」
響く低音が私の耳をくすぐった。
予想外の選択肢を提案されて、目を見開く。
思わずグイッと忠義くんを押し返して、素っ頓狂な声を上げてしまった。
そんな私の反応に忠義くんが笑い出した。
それはいつもの冗談なのかもしれないけど、相変わらずな私の気持ちを揺さぶるには十分過ぎる。
「ほら、合鍵でええやん」
困る私を見て、いつものように笑い声を上げながら忠義くんは満足そうにそう言った。
今日は早く帰ってくださいってみかちゃんとゆみちゃんに最後のお客さんが帰るなり追い出されてしまった5月15日。
もう日付が変わろうとする時間に、忠義くんが我が家のインターホンを鳴らした。
「ワイン、あるけどどうする？」
「飲むに決まってるやん」
「遅いからおつまみ軽いのにしといたよ」
「…帰ってきてから作ったん？」
「うん？だね」
「疲れてるやろー？そんなんせんでええのに、もー」
そう言ってちょっと顔が緩む忠義くんを見て、私も嬉しくなる。
気付けばもう12時を回っていた。
「お誕生日おめでとう」
「ありがとう」
ワイングラスが小さく音を立てる。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年5月10日 17時
