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忠義くんから事前に予約があったその日、先に到着したのは目の覚めるような美人さんだった。
大倉で予約してあると思うんですけど、って遠慮がちにはにかむ顔に女の私でもキュンとする。
「…なんだろ、天使かなんかかな」
「…違います」
案内したみかちゃんに声を掛けると冷たくあしらわれて。
早く仕事して下さいって調理場に押し込まれた。
その後10分程遅れて到着した忠義くんは、軽く手を上げて個室に向かった。
「…彼女ですかねぇ」
私には仕事して下さいとか言ってた癖に、注文を聞いてきたみかちゃんがニヤニヤとそんな事を言い出した。
「…そうじゃないの？」
「スクープですね」
「こら」
「冗談ですって！」
笑いながらみかちゃんが注文されたワインを運んで行った。
忠義くんだってあんなに綺麗な顔してるんだから、彼女の1人や2人いても不思議じゃないと思う。
その彼女があれだけ可愛いのも当然といえば当然だ。
どっちにしても人の恋愛事情なんて詮索するもんじゃない。
忠義くんが個室に入ってから2時間を過ぎた頃、お会計から戻ってきたみかちゃんから、大倉さんが呼んでますとカウンターを覗き込む。
何か呼ばれるような事があっただろうか？
忠義くんは時々来てくれているし、今更わざわざ個室に呼び出すような事するとは思えない。
もしかしたら彼女さんのお口に合わなかったのかもしれない。
キリの良い所で個室に向かって、ちょっとドキドキしながらドアをノックする。
中に入ると目が合った忠義くんが申し訳なさそうな顔をした。
「…お呼びでしょうか？」
私の質問に忠義くんが答える前に、違うんです、と向かいに座る彼女が口を開いた。
目を向けるとニコニコと笑顔を浮かべている。
「お忙しいのにごめんなさい」
「いえ、とんでもありません。何かありましたか？」
「いえ、忠義がよく美味しいって話してくれるから一度来てみたかったんです。お料理、本当に美味しかったです」
少なくとも口に合わなかったとかそういう事ではないようで、胸を撫で下ろす。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
