08. ページ8
何かおつまみでもと思って声を掛けたら、思いの外嬉しそうな顔をする。
「でもこんな時間にガッツリは良くないですよね？」
「…ほんまやなぁ。けどお腹空いてんねん」
「鯛が余ってるから鯛茶漬けとかどうですか？お腹にも良さそう」
「お、ええなぁ。ほんまなんか悪いなぁ」
ついでにビールもう一杯ちょうだい？ってやっぱり悪いと思ってるようには感じない。
鞄からスマホを取り出して弄っているから、そっとビールを置くと、視線が少しだけ動いてありがとと小さな声が聞こえた。
「お待たせ、し…ました」
最後にトッピングののりを乗せながら顔を上げると、さっきはスマホを弄っていたはずなのに、ニコニコ笑う忠義くんと目が合った。
なんで笑ってるのかはわからないけど、器をカウンターに置くのさえもじっと見てくるから。
さすがにその整った顔でそんなに見られてしまうとちょっと恥ずかしいわけで。
思わず目を逸らした。
「…どうしました？」
「や、ニコニコ作ってたから」
「…へ？」
「めっちゃ嬉しそうに作ってくれてるんやもん」
「…私？」
「ほかにおらんやろ」
Aちゃんほんまおもろいなぁって、呟いて。
「可愛ええなぁって」
ニッコリと微笑んだ。
その顔で笑顔を浮かべながら可愛いなんて言われて、キュンとしない人間がいるんだろうか。
お願いだから、その顔で見ないで欲しい。
キュンとなってしまった事を隠すように、忠義くんの方へ器を更に近付ける。
「…冷めないうちにドーゾ」
「うん、ありがとう」
「…ビールもっと飲みますか？」
「もうええわ。ほないただきます」
私の気持ちを知らない忠義くんは笑顔を崩す事なく、両手を合わせて小さく頭を下げた。
「うんまぁ。浸みるわぁ〜」
忠義くんが漏らすそんな言葉と本当に美味しそうに食べるその姿が、ますます私の心をざわつかせる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 179人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
