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だとしたら今日これを返すのは無理そうだ。
そもそも連絡があるかさえわからない。
困ってしまった私はカウンターに項垂れる。
村上さんの顔が浮かぶけど、村上さんの連絡先だって…。
……知ってるかもしれない。
お店を出した時に開店祝いのお花を頂いて、お礼の電話も出来ずに困った事があったのを思い出した。
きっと連絡する事はないだろうけど、もしもの時の為にと一度聞いた事がある。
スマホを取り出して、その名前を探す。
「あった…！」
掛かるかわからないけど。こんな時間に出てくれるかもわからないけど。
祈る気持ちで通話ボタンをタップした。
私の祈りが通じたのか数コールで聞こえてきた村上さんの声。
「はぁぁ、良かったぁ」
「…何がや？」
安堵の声を漏らした私に、不思議そうな村上さん。
事情を説明するとすまん、と何故か謝られて。
今から取りに行くとまで行ってくれた。
「ほんま、すまん！こんなん忘れられたら困ってまうわな」
ちょうど仕事が終わった所だったという村上さんが、マネージャーさんの運転する車で来てくれたのは電話を切って30分ほど経った頃だった。
仕事帰りで疲れているだろうに、一生懸命に謝ってくれる。
「村上さんが謝る事じゃないので。それに仕事帰りにこちらこそすみません」
「かまへんかまへん」
サングラスと免許証を手渡すと、ほんまにアイツはもう…と呟いてそれを鞄に押し込んだ。
「遅くなってもうたし、乗ってくか？」
「いやいやいや！自転車ありますから」
「なんや自転車通勤なんか？ほな尚更こんな遅くに危ないやろ」
「店に残って遅くなる時もよくありますから！本当大丈夫です！」
「…頑固やなぁ」
ようやく村上さんは諦めてくれて、大倉にはよう言うとくわと言いながら、車に乗り込んだ。
私はその車を見送って、ホッと胸を撫で下ろした。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
