45.(side T.O) ページ45
「ビール飲む？」
そんな俺の気持ちを知ってか知らずかAちゃんがいつものように聞いてくる。
「…めっちゃ飲みたいけど、我慢するわ。待ってるから、はよ終わらせて？」
今飲んでもうたら台無しになってしまう。
今日はアルコール抜きでちゃんと話したいねん。
「じゃあコーヒーでも淹れよっか？」
「なんもいらんて。そんなんせんでええから、はよ帰ろ？」
俺に言われて困った顔を浮かべたAちゃん。
クリスマスの日、彼女とおるって勘違いしとってわざとらしいくらい明るく話してた。
会いに行くと言った俺に嫌とは言わんかったけど、きっと今みたいに困った顔してたんやろな。
いつの間にか最後のお客さんが帰っとって。
臨時のバイトのしげるくんは、さっきから俺をチラチラ見ては目を逸らして、黙々と店内を掃除しとる。
Aちゃんはレジ締めしとるし、みかちゃんは外の片付けに行ってもうた。
2人の目を盗んでちょいちょいと手招きして、しげるくんを呼んだ。
「俺の事知っとる？」
「…もちろん、知ってます」
「ほんま？ありがとう」
Aちゃんに聞こえへんように声を潜める俺に、なんで呼ばれたんかもわからんやろうし、明らかに緊張した様子のしげるくん。
「仕事慣れた？」
「はい」
「Aちゃん、優しい？」
「…はい」
「こんな時間に急に俺が来たらビックリするよな。ごめんな？」
「…いえ、別に、そんな事…思ってません」
「そんな緊張せんといてよ。Aちゃんのお迎えやねん。これからもたまに来るからよろしくな？」
「あー、えっと…Aさんと…付き合ってる、とかそういう事、ですか？」
「まぁ、そういう事」
まだそういう事にはなってへんけど。俺はそのつもりやしええよな。
しげるくんは俺の浮かべた笑顔にちょっと顔を赤らめて、納得したように頷いた。
なかなかのイケメンやのに中身は純情らしい。
「ちなみに今日は久しぶりに会いに来たから、はよ終わらせて欲しいねん」
「あ、はい」
うん、物分かりも良くてええ子。
ほな頑張って掃除して？って言う俺にまた、はいと小さく頷いた。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
