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「…大倉忠義さん、笑い過ぎです」
「なんでフルネームやねん！」
もうツボにハマっていて、何しても笑ってくれそうな大倉忠義さんが涙目になりながら笑い続けている。
見兼ねた村上さんがたつ、とその肩をペシンと叩いた。
「A困ってるがな。ほれ、もう行くで！」
「…はーい。ぶっ、んふっ」
手の甲を口に押し当て、必死で笑いを堪える姿に若干の苛立ちを覚える。
ダダ漏れだし、もう一回村上さんに叩かれてしまえばいいのに。
はよ行くで〜と村上さんが店を出て行く後ろ姿見送って。
いつきさんのまた来るって言葉に、はいと返事をして。
大倉忠義さんが2人の後を追う…前にクルリと私に振り返った。
「信ちゃんに聞いたら、同い年なんやて」
「え？そうなんですか？」
「こっちのセリフや。若いのに偉いなぁ言うたら同い年やがな！って笑われた」
「へー」
私は思わず大倉忠義さんの上から下までに目を走らせて、もう一度へー、と呟いた。
それはまぁ芸能界なんて世界で活躍してるであろう彼の努力の賜物なんだろうけど。
私こそ年下だと思ってた。
「それにフルネームはさすがに遠慮する。なんか適当に…まぁ、名前でええわ」
「名前って…忠義、くん？」
いくらなんでも初対面のお客様。
さすがに気が引ける。
「ん、それでええわ」
だけど大倉忠義さんは満足そうに笑顔を浮かべて、ほなまたと呟いた。
ドアに手を掛けると、一瞬動きを止めて、何故だかまた振り返る。
やっぱり笑顔のまま。
「Aちゃん！ほんま美味しかった！」
いやいや、うちのお店狭いから。
大きな声出さなくても聞こえますって。
失礼なんだか良い人なんだかよくわからないけど。
きっと自分の気持ちに正直な人なんだろう。
そのニコニコ顔は案外可愛い。
「忠義くん、ありがとうございました！」
思わず私も同じように笑顔で返してみたら、
「なんや、可愛い顔出来るやん」
ってやっぱり失礼な発言をしながら大倉忠義さんはようやく店を出て行った。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
