30. ページ30
目が覚めると隣で忠義くんがぐっすりと眠っていた。
初めて見るその寝顔に、昨日の事を思い出して少しの後悔が押し寄せる。
「…忠義くん？」
「…んん？」
「忠義くん、仕事大丈夫？」
「…んー？」
私の声に忠義くんはパチっと目を見開いて、勢いよく起き上がった。
寝起きのせいか緩く微笑んでから、またベッドに倒れ込む。
「……Aちゃん、おはよ」
「うん、おはよ。ねぇ、仕事大丈夫？」
「…大丈夫」
「飛び起きるから遅刻しちゃったのかと思った」
「…今日昼からやから」
「ん、良かった」
まだ眠いらしい、そっとしとこ。
シャワーでも浴びようと思ってベッドから這い出ようとすると、腕を掴まれた。
「…何処行くん？」
「…シャワー浴びよっかな？忠義くん寝てていいよ？」
「…アカン」
そのままグイッと引っ張られて忠義くんの横に逆戻り。
「Aちゃんも時間平気やろ？」
「…うん」
「ほなちょっとこうしてて」
忠義くんにきつく抱きしめられて、身動きが取れなくなる。
熱に浮かされた時間が終わってしまえば、後悔は大きくなる一方だ。
相手は彼女持ちのアイドル。
虚しさが消えたのはほんの一時。
こんな風に甘やかされたら、ますます虚しくなってしまうのに。
それでも包み込まれる安心感から抜け出せない。
もう少しこうしていたい。
忠義くんの大きなその背中に私も腕を回して抱きついた。
「んふ、どしたん？」
「んー？甘えてんの」
「……可愛ええ」
今だけ、あと少しだけ。
そしたらまたいつも通り、ちゃんと1人で立てるから。
そう自分に言い訳して、しばらくそのままでいると、忠義くんはやっぱりまだ眠かったらしい、規則正しい寝息が聞こえてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 179人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
