26.(side T.O) ページ26
Aちゃんの頬に指先が触れると、俺を見上げる顔がこれでもかってくらい、困ってる。
けどそんなん無視して、そのまま優しく頬を包み込んだ。
触れた指先が熱い。
「…ちょっと忠義くん。そろそろやめて」
困惑した目を揺らしながら、抗議の言葉を吐き出して、俺の手をその小さな手が押し返した。
仕方なく、誤魔化すように笑ってみせる。
「…んふ、ちょっとドキッとしたぁ？」
「もう、冗談が過ぎるよ！」
別にからかってるわけでも、冗談のつもりもないんやけど。
幸せそうに料理する姿が癒される。
からかうとちょっとおもろくて、一緒におると楽しくて。
仕事熱心で一生懸命な姿も応援したくなる。俺も頑張ろって思える。
そんな友達が出来たと思ってた。
けど、君に会う為に、色んな口実が思い付くから不思議やねん。
ちょっと照れた顔も拗ねた顔も、俺を心配して笑かそうとする君も。
隠しきれてないアホみたいに健気なその思いも。
もっと見ていたいと思うし、もっと君のことが知りたいと思ってしまう。
もう、自分でもどうにも出来ひん。
もうどうしようもなくAちゃんに惹かれてる──。
「え？俺の顔なんかついてる？」
「別にー、見てただけー」
「にしては近いで？何？大倉、今日変やない？」
撮影の合間、マルの顔をマジマジと眺めてみる。
Aちゃんのタイプのその顔、なんぼのもんじゃい！
…うん、言うてもよう知ってるマルの顔やし。
まぁ、イケメンなのは認めるで。
「もしかして俺のこと好き…なん？」
「…きっしょ」
「えーー？もう何？散々見てたん大倉やで！」
「別にぃ。好きで見てたんちゃうし」
タイプなんて所詮タイプなだけで、好きになるのって案外タイプやなかったりするやん？
「…Aちゃん大丈夫やろか」
もうすぐいつきさんの奥さんの誕生日やって言うてた。
辛くなってなかったらええんやけど。
「え？誰それ？」
「マルは知らんでええねん。一生会われへんと思うわ」
「なんでなん？俺なんかした？」
「したー。マルの顔しばらく見たくないレベルでしたー」
「せめて何したか言うてっ！」
マルちゃんがワーワー騒いでる横で、そういえばこないだ結局連絡先聞き忘れてもうたから。
今度聞いたろ、なんてまたAちゃんのとこに行く口実が思い付く。
「もー、ほんまなんやねん！」
黙れ、マル。お前には負けへんからな！
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
