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「な、んで…」
「こないだ奥さんの話ししとった時にちょっとそう思っただけやし、別にどうこう言いたいわけちゃうで」
「…まさかぁ。好きじゃないよ」
おかしいな…こないだもいつも通りに振る舞ったつもりなのに。
そんな風に見えてた？
それでもなんとか言葉を絞り出す。
「お店の事とか本当に親身になってくれて。昔から頼りになるお兄ちゃんみたいな人なだけ」
その答えに納得したのかしてないのかはわからないけど。
「…ん、そんならそういう事で」
「そういう事でじゃなくて、そうなの！」
「…はいはい」
忠義くんは呆れたように溜息をついて、私の頭をくしゃくしゃに撫で回した。
「ちょっと、やめてよ」
人の頭をぐちゃぐちゃにしたくせに、ぐっちゃぐちゃやで、と笑い始めた忠義くんは、ふとボソリと呟いた。
「…上手い事いかへんよなぁ」
グイッとワインを流し込む。
私の前ではニコニコしてる事が多いから、珍しく沈んだ顔に驚いて。
「…なんかあったの？」
「ん？なんもないけど」
「仕事？」
「まぁ、仕事も大変やけど」
「…彼女？またケンカ中？」
「…ケンカとは違うな」
「どれくらい付き合ってるの？」
「んー、1年くらい？」
「倦怠期じゃない？」
「…そうなんかなぁ」
「…私、からっからだからそういうのもうよくわからないけど」
その顔があんまりにも暗くて、確かに笑い飛ばそうとしたんだけど。
忠義くんは一瞬固まって、次の瞬間、大笑い。
「…笑い過ぎ」
「やってぇ、自分で言う？」
「…自分で言っておいてちょっと傷付いた！」
「傷付いたんや！アカンて、ほんま…」
忠義くんはひとしきり笑った後、せっかく直した頭に手を伸ばしてくる。
「わぁ！もうダメ！」
だけどその手はさっきみたいにくしゃくしゃと頭を撫で回す事はなく。
優しくポンポンして。
「…ほんまに、もう……」
いつもと様子の違う忠義くんに自分でも驚く程に、動揺しているのがわかる。
思わず目を伏せた。
「あ、もしかして照てんの？」
「…からかうのやめて」
精一杯の抗議の言葉を漏らせば、免疫不足ちゃう？ってまた笑ってる。
「…ワイン没収しまーす」
「わ、嘘やん！ごめんて。ワインは取らんといて！」
免疫は確かに足りていないけど、忠義くんにそんな優しい顔で頭ポンポンされたら、誰だって照れるに決まってる。
ドキドキする心臓を落ち着かせるように、ワインを流し込んだ。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
