好きになってもいいですか？(緑) (ページ19)

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店の外、呼んであったタクシーに乗り込む忠義くんと村上さん。

この後もう一軒行くらしい。

いつきさんが足を止めた。くるっと振り返る。

「A、来月かなえの誕生日だから…」

いつきさんの奥さん、かなえさんは普段お店に来る事なんてないけど。

お誕生日は毎年うちに食事に来てくれる。

だからか、いつきさんが申し訳なさそうに眉毛を
下げるから。

「わかってます。かなえさんの好きなシャンパン、ご用意しときます」

私はいつも通り笑い返した。

「いつも悪いな」

「こちらこそいつもありがとうございます」

お待ちしております、いつきさんに頭を下げた。

かなえさんが一年に一度だけ私の店で、いつきさんと2人誕生日を祝うのは、きっとわざとだ。

未だにずっといつきさんが私に良くしてくれているのが気に入らないし、そこは自分の場所だと暗に示しているに違いない。

箱にしまった気持ちを出す気なんてもうこれっぽっちもないけど。

その日がちょっと憂鬱になってしまうのは仕方ない。

３人を見送ってから店に戻ると、片付けをしてくれていたみかちゃんがニヤニヤと近付いてくる。

「な、何？怖いっ」

「大倉さんといい感じじゃないですかぁ？」

ねぇ、そう思うよね？と、ゆみちゃんを手招きしてる。

2人は同い年で、明るいみかちゃんと控えめなゆみちゃんと性格は真逆だけど、それが案外合っているらしい。

仲良く2人で出かけている所がSNSに上がっている。

みかちゃんに言われてこくんと小さく頷くゆみちゃん。

「聞いてた？忠義くん、彼女いるじゃん。ここに来た事あったよね？」

「えー、そんなの奪っちゃえば良いじゃないですか！」

「こわっ、若い子こわっ。おばちゃんそんな事できないっ」

「大倉さんも満更じゃないと思います」

「いやいや、忠義くんはただ面白がってるだけだから」

からっからな私に癒しを与えに来てくれてるだけだし、2人は知らないだろうけど、いっつも人の事笑って帰っていくんだから。

とはいえ、最初こそ失礼な人だと思ったものの、今は案外その距離感が楽しかったりするんだけど。