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「いらっしゃいませ」
ゆみちゃんの声に顔を上げると、もうすでにカウンターに座っていた村上さんが八重歯を覗かせた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました」
「お一人ですか？」
「いや、若と待ち合わせ」
村上さんがうちに1人で来る事はほぼない。
だいたいいつきさんと一緒だし、そんなに頻度も多くないけど。
私が店を始める前から、当時働いていた店にも来ていたし、案外長い付き合いになる。
「ビールくれ」
「はい」
「そういえばこないだありがとうな」
「……へ？」
「大倉の免許証」
「あ、いえいえ。大倉さんわざわざお礼に手土産まで持ってきて下さいました。村上さんに怒られたってしょげてましたよ」
「怒ってへんわ。Aもずっと待っててくれとったみたいやし、さすがにちょっと言うたけど」
村上さんはちょっとだけ笑いながら、すまんかったなと呟いた。
あの日も散々そう言ってくれた上に村上さんが謝る必要は何もないんだけど。
村上さんの優しさなんだろうと思って、素直に受け取る事にした。
ビールを飲みながら、スマホを弄る村上さん。
「うわっ」
「ほんまか」
なんて独り言が時折聞こえてくる。
案外長い付き合いのおかげでもう慣れたけど、ゆみちゃんがその度に村上さんを振り返って見てる。
ちょっと面白いけど、いちいち驚いてるから可哀想になる。
「村上さん、声出てますからね」
「……ホンマか。すまん。ヨコにもよう言われるんやけどなぁ」
「…ヨコ？」
「…メンバーや。ええ加減覚えろや」
呆れた顔されても。
村上さんからメンバーさんの話しなんて聞いた事ないですし。
「…そのうちに」
「そう言うてもう何年経つねん」
「忠義くんの事は覚えましたから」
「あとたったの3人やろ」
「…頑張ります」
ますます呆れた顔して、村上さんはビールを流し込んだ。
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作者名：咲菜 | 作成日時：2022年4月3日 21時
