第8話 : はじめて ページ10
昼休みになると、生徒たちは一斉にランチルームに向かって駆け出した。
この学校では美味しい給食が出るらしい。
既に特定の友人を作っていたクラスメイトたちは一気に教室を出ていき、私は一人取り残されてしまった。
「A、ランチ一緒に食べる？」
そんな私の様子を見据えて、星野先生が声をかけてくれた。
「いいんですか？」
「もちろん」
私は安堵から笑みをこぼす。
私たちは教室を出て、走ることなくランチルームに向かった。
ランチルームでは一年生に加えて、新入生を誘導する寮生のニ・三年生がいた。
笑顔で挨拶をしてくれる先輩たちに会釈を返しながら、私たちは空いている席を見つけてそこに座った。
「今日はお疲れ様でした」
「緊張しすぎて、全然記憶にないんです」
私が言うと、星野先生は笑う。
「完璧だったよ。やっぱり心配いらなかった」
先生は満足気な表情をして、ランチのチキンを頬張った。
「源ちゃーん」
するとそこに、星野先生の名前を呼びながら、お盆を持った誰かが近づいてきた。
「学校でその呼び方はやめてください」
星野先生は厳しい目をしてその人を見つめる。
身長が高く、細身で顔が小さい男性だ。
名前も知らないその人を見つめていると、ふいに目が合った。
「あ、さっきの代表挨拶の」
男性が言う。
「立川Aです」
私は手にしていた皿を置いて、その人に頭を下げる。
「音楽科の綾野剛です、よろしくね」
綾野先生は笑顔で言う。
そしておもむろに、空いていた私の隣の席に座ってきた。
「お二人は仲良いんですか？」
「うん、まあね。星野先生はこう見えて、音楽にも精通しているのです」
「こう見えてって」
自慢げに言う綾野先生に対し、呆れる星野先生が面白く思わず笑っていると、私のことをじっと見つめる綾野先生と再び目があった。
「笑ってる方がかわいいね」
綾野先生が突然言うので、私は驚いて咽せる。
「またそうやって女子生徒をたぶらかす」
「まあ、事実だから」
綾野先生は面白がっているようだ。
「突っかかりずらい先生でごめんね」
「いや、なんで星野先生が謝るの」
綾野先生は苦笑する。
私はまだ心臓が大きく鳴り響いて、箸すら持てないでいた。
かわいいなんて言われたのは初めてだったので、なかなか顔の熱は冷めなかった。
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作者名：佐々木さん | 作成日時：2020年12月7日 2時
