第7話 : 笑顔 ページ9
3組の教室に入ると、先頭に立っていた星野先生は既に教卓の前に立っている。
黒板には、座席が示された紙が掲示されていた。
「今日からしばらくはこの席で過ごしてもらうから、みんな確認してそこに座って」
席は名簿順に並べられているらしい。
私は真ん中の列の、丁度ど真ん中の席だった。
「それじゃあ、提出物を回収する前に、左右前後で自己紹介!」
突然言われて私は戸惑う。
そんな中で、他の生徒たちは着実にクラスメイトと距離を縮めていく。
私は左右の生徒たちが自己紹介を終えるのを待って、正面を向いて一人静かに座っていた。
すると、突然私の目の前の席の女子生徒が勢いよく此方に振り向く。
「よろしく!Aちゃんだよね」
その生徒は満面の笑みで言う。
私が頷くと、嬉しそうに目を輝かせた。
「さっきの挨拶、本当にすごかったよ。かっこよかった」
「ありがとう」
私は照れて、顔が熱くなるのを感じる。
「私、清野菜名。よろしくね」
「よろしく」
彼女は白い歯を見せて笑った。
見ているだけで明るい気持ちになれそうな生徒だ。
この学校には、笑顔が素敵な人が多い。
誰でも私に優しく笑いかけてくれる。
そんな笑顔を向けられるたびに、自分は人に同じことができているだろうか、と考えさせられる。
「Aちゃん、どうかした?」
菜名ちゃんはぼーっとしている私を見て声をかける。
「ううん、なんでもない」
「きっと疲れちゃったんだね。そりゃそうだよね。私もAちゃんみたいに、堂々と人前に立てるようになりたいな」
この学校に来ると、みんなが私のことを褒めてくれるし、羨んでくれる。
私にはそう思われるような素質はないというのに。
「私は───みんなみたいに心から笑えるようになりたい」
私が言うと、菜名ちゃんは一瞬呆然とする。
「Aちゃんの笑顔は、素直で素敵だったよ」
「え?」
「さっきの代表挨拶のとき。あんなに大勢の生徒を前にしても、Aちゃんの笑顔は輝いてた」
菜名ちゃんは言う。
それは私を慰めるためのお世辞なのかもしれないが、すごく嬉しかった。
人前に立っても、私は笑うことができていたんだ。
代表挨拶をしていた時の記憶はほとんど無くても、
例え菜名ちゃんの言うことが事実ではなかったとしても、
少しだけ、自分を認めてあげることができた。
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作者名:佐々木さん | 作成日時:2020年12月7日 2時