第1話 : 出会い ページ3
春。
入学式の前日に、私は新しく通うことになる花峰《はなみね》学園に足を運んだ。
特待生として新入生代表のスピーチを任されたので、その打ち合わせのためだ。
特待生と言えば聞こえはいいが、花峰学園はお金さえあれば入れる偏差値の低い私立高校として有名である。
私は名門中学の同学年の中で唯一花峰に通う劣等生だ。元々クラスでは一番成績が悪く、クラスメイトには避けられいじめも何度か経験した。
名門校に入学するために長期期間は全て受験勉強に費やしたものの、ほとんど不合格。
親の期待にも応えられず散々叱られた挙句、周りの目から逃れようと、知り合いが誰もいない花峰に特待生として入学することを決めた。
今は家を出て、祖父母の家で暮らしている。初めは花峰に通うことに躊躇いがあったが、過酷な勉強の日々から解放されると思うと、少し気が楽でもあった。
花峰学園という表札が堂々と掲げられた校門を抜けると、中には海外のお城のような立派な校舎が聳《そび》え立つ。
流石は私立高校だ。
校舎の入り口に立ち、もう一度深呼吸をする。
新しい場所というのは、何度経験しても緊張する。
心の準備をしてから玄関に入る。
広い玄関には誰もいない。
来賓用の下駄箱に靴を入れ、スリッパを取ってそれを履く。
職員室は二階と聞いていたが、広すぎて階段を探すのもやっとだ。
階段を登って二階を歩き回っていると、教室に誰かいるのを見つけた。
横顔が綺麗な男性だ。
職員室の場所を尋ねようと、教室の扉を開ける。
その瞬間暖かい風が吹き当てて、全身を包む。
桜の香りが優しい風だ。
そんな私を見て、男性は微笑む。笑顔が柔らかくて、可愛らしくて、微かに心臓が高鳴るのを誤魔化せないでいる。
「迷ったの?」
男性が先に口を開く。
「はい、あの、」
「立川Aさん、だよね」
名前を呼ばれて困惑していると、その表情を見て彼はまた笑う。
「Cクラス担任の星野源です。君のクラスの担任ね。特待生の子だよね?」
「そうなんです。代表のスピーチで呼ばれて、でも職員室の場所が分からなくて」
「案内するよ」
星野先生はそう言って教室を出ようとする。私はその後を追った。
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作者名:佐々木さん | 作成日時:2020年12月7日 2時