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十五番街の倉庫にて
太宰、敦、Aはそれぞれが
それぞれの木箱の上で座っていた
敦「太宰さん、何を呼んでるんですか?」
太宰「良い本」
敦の問い掛けに太宰は簡潔に答えた
その本の表紙には”完全自‘殺読本”と書かれていた
敦「こんな暗い中で良く読めますね」
太宰「目は良いから、それに内容はもう凡て頭に入ってるし」
敦「じゃあ、なんで読んでるんですか?」
太宰「何度読んでも、良い本は良い」
Aは太宰の今読んでいる本は兎も角として
良い本を何度読んでも良いという太宰の言葉に
頷きそうになったが止めた
若し本の話を振られたら此の世界に有るのか分らない本の題名を
云わなければいけないからだ
だからAは其の光景を眺めた
敦は不安そうに呟く
敦「本当に虎は此処に現れるんでしょうか?」
太宰「現れる」
太宰の言葉に敦はひいっと声を漏らす
だが太宰は平坦な声で続ける
太宰「心配いらない」
敦は太宰の言葉にえ?と太宰の方を見て返した
太宰「虎が現れても私の敵じゃないよ
こう見えても”武装探偵社”の一隅だ」
太宰の言葉に敦は悲しそうに下を向いて笑う
敦「凄い自信ですね、なんか羨ましいです…
僕なんか、孤児院でもずっと”駄目な奴”って言われてて…
そのうえ今日の寝床も
明日の食い扶持も知れない身で
確かにこんな奴がどこで野垂れ死んだって
誰も気にしない…
いや、いっそ虎に食われて死んだ方が」
『敦さん』
Aに呼ばれハッと顔を上げる
敦はAを見ると悲しそうな顔で自分を見ていた
同情でも憐れんでもいない
唯、悲しそうな顔をして見ていた
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作者名:月夜のジョバンニ | 作成日時:2021年11月29日 19時