雄英脱出【死柄木弔】 (ページ28)

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嫉妬ページ28

「そっか」

その瞬間、色取彩人から笑顔が消えた。先ほどの無邪気な笑顔はどこにもなく、今度はゆっくりと不気味な笑顔を浮かべていた。その温度差にぞわりと悪寒が走る。

彼の黒い笑顔に死柄木弔も驚いている。同時に喜んでいるように見えた。死柄木の言っていた「いい子ちゃん」とはかけ離れたような自分だけが全てとでも言いたげな顔が彼の本性を表していた。

「怒ってるの？」

　「まさか！大切なクラスメイトを見てもらえたなんて嬉しい限りですよ。ねぇ？」

「嘘つき。」

　「はは。」

色取彩人は笑っていたが顔はそのままだった。私は黙ってグラス拭きに戻る。しかし少年は私の視線に気付いたようで、ゆっくりと目を伏せ、純粋な瞳に戻った。

彼は全てがゆったりとしていて品があるというか、人を油断させる、モノにするのが上手かった。

　「俺、俺…」

「…？」

少年はまた眼を閉じる。何かを考えているのか。目にかかるくらいの前髪が揺れた。そして何かを思いついたように口角の上がった口を開く。

　「そうだ、死柄木さんは神様だ！」

「…は？」

　「でも俺を見ない死柄木さんなんて神様じゃない。」

色取彩人が死柄木弔にジリジリと寄っていく。しかし全く危険な感じがしない。ただ単純なる好意が歩み寄るだけ。私も死柄木と同じように彼を見つめることしかできなかった。

　「俺を見ないくらいなら俺に殺されてほしい。」

「…あ？」

明らかにおかしいのに、殺意が感じられない。わからない。彼の本心が。死柄木だけを映した瞳がとても美しく、また憎悪の色を帯びていた。

　「ねぇ！死柄木さん！！」

「っ！！」

少年は死柄木弔へ飛び込んだ。思いっきり振りかぶった手にはバーの備品のアイスピックが握られていた。いつの間にか盗んでいたのか。明らかに殺そうとしている。気付けたはずなのに全くそうしようともしなかった。

死柄木弔も反応する。掌を彼へ向けようと構える。張り詰めた空気。

「いけない！！」

私が個性を使おうとする前に、色取彩人は止まった。彼はにこにこと無邪気に笑って振り上げた手を下ろす。アイスピックを愛おしそうに撫でながら言った。

　「俺のこと見てましたね。死柄木さん」

「…殺されそうになったら誰だってそうする」

　「良かった」

私が思う以上にこの少年は異常なのかもしれない。

　「俺のこと嫌いになりました？」

「…別に」

　「また来ていいですか？」

「好きにすれば。」

死柄木弔も大概おかしい。