雄英脱出【死柄木弔】 (ページ26)

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最高の個性ページ26

倒れて目が覚めた。俺は保健室で寝ていた。多分負けた、そんな事実が実にどうでもよくて。天井を見上げながら微笑む。

　「っ楽しかったなぁ」

あの時俺はヒーローだった。人を助ける方のやつじゃなくて主役って意味で。皆んな俺から目が離せなくて、俺が支配して。

あれは何だったんだろう？個性のできることが増えたのか？倒れた時の涙はいつものキャパだったから多分個性を使った何かだろう。

一時的に視界を捕らえて注目させる力。

俺にピッタリだ！最高の個性、生まれて初めてそう思えたよ。皆んなが俺を見てくれるんだ。俺という存在を知ってくれるんだ。なんかドキドキしてきた。頬が紅潮してまた泣きそう。

ベットを囲むカーテンを見つめる。灰色のカーテン。

なんか、死柄木さんに会いたいな。俺のこと見てくれたかな。初めて俺を、俺の内側を見てくれた人。会ったのは数回だけど、どんどん引き込まれて、俺の目を奪った人。盲目なんだ。

笑みが溢れる。気持ちがいい。

そんな時間も束の間、乱暴にカーテンを開ける奴がいた。1人の空間は一瞬で無くなって、広い保健室に生まれ変わった。

「あ！彩人ぉお！！！」

切島だった。焦げ臭いし汚い。試合終わりなのかもしれない。こいつは何故か泣きそうで、俺の寝ているベットの横でしゃがみ込んだ。

　「何しにきたの」

「おいおい冷てえな！！！俺がどんだけ心配したと…」

　「爆豪に負けた？」

「う゛、ってんなことどうでもいいんだよ！！」

うるさい。本当にうるさい。切島…、こいつも俺のこと見てるな。誰でもいいのかな。俺。死柄木さんへの憧れは、実はハリボテで見てくれるなら誰でもいいの？だから個性を使って皆んなを注目させて楽しかったの？

「お、俺怖かったんだよ！！お前から目が離せなくなった時！」

切島は口を開く。俺の個性に怯えてるのか？心の中でマイナスの感情が生まれる。なんでだろう。

「あの時見たお前が、どっかに行っちまいそうで…！」

　「はァ？」

「変なこと言ってる自覚はあるよ、でもお前別人みたいだったんだよ」

　「はは、俺は俺だよ。」

マイナスの感情は不要になった。切島が恐れるのが俺じゃなくてよかった。そう思った。

「いつものお前に戻った！元気そうだな、立てるか？閉会式行こうぜ！！」

切島の手を取って立ち上がる。汚れた手だけど一番あったかかった。

憧れの死柄木さんと友達の切島。どっちも俺を見てくれる。俺は何になればいいんだろう。