雄英脱出【死柄木弔】 (ページ12)

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最低なひとときページ12

遠くから音が聞こえる。真っ暗闇の中、その音はだんだんと近づいてきて次第にハッキリとした声になった。それから今度は暗闇が薄れていって自分は今寝ている状態なのだと気付かされる。

このままずっと眠っていたい。そう思っていたのに瞼はパチリと開いてしまった。ここは保健室のベッドらしい。重い体を起こすとまだボロボロのコスチュームは着たままで、左肩にはビチッと包帯が巻かれていた。あの人からの贈り物はまだ痛んでいる。

外を見るともう空は黄昏ていて、ぼんやりとした雲が沈みかけていた太陽の色に染まっていた。こんなにも空は鮮やかなのに、俺の心は厚い雲に覆われていた。

オ「色取少年！！目が覚めたか！！」

　「っ！！？お、オールマイト…」

冷や汗と鳥肌が止まらない。アンタは一番嫌いだ。今日一日を過ごしてより一層。強張った顔を不審に思われないよう下を向いた。オールマイトに反応したのか、左肩の傷は再びジクジクと悲鳴を上げた。

オ「少年、大丈夫かい？」

お前がいなければ大丈夫だよ。下を向いたまま目を伏せる。さっきまで死柄木さんが横にいてくれたのに。

いや待て。でも死柄木さんは俺を見てなかった。オールマイトを見てたんだ。それなら死柄木さんもいらないじゃん。俺を見てて欲しいのにな。

オ「今リカバリーガールを…」

　「…ヴィランは？」

オ「へ？」

　「ヴィランはどうなったんですか。」

気のせいかもしれないが、オールマイトはなんだか少し焦っているように見える。サッサと俺の前からいなくなってしまいたい。そんなふうに見える。俺だって同じ気持ちだけど。

オ「ヴィラン達は、No.１として、とても不甲斐ないのだが、逃してしまったよ…。だが次こそは必ず！！」

お前の決心なんてどうでもいいんだ。オールマイト。俺は死柄木さんが無事なことだけが知りたかったんだ。次こそは必ず、死柄木さんに見てもらうんだ。

オ「それじゃ！少年、さらばだ！あ、切島少年は教室にいたよ」

切島…。最低なこの気分をあいつなら晴らしてくれるのかな。死柄木さんに会えた喜びを切島は補ってくれるのか？早く帰らないと親に叱られる。だけど会いたいな。

　「着替えよ。」

ヒーローくさい保健室を後にした。